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選ばれるブランド作り、秘訣は「顧客対話」にあり 食のミツカン、音楽のSpotifyに聞く(2/2 ページ)

顧客との関係を構築し、選ばれ続けるブランドに育てていくには、どのような工夫ができるのだろうか。食のミツカン、音楽のSpotify──有形商材・無形商材それぞれを提供する2社に聞く。

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利用者の“ながら時間”を獲得していく Spotifyのコミュニケーション戦略は?

 Spotifyは世界で月間約7億人が利用する音楽・音声ストリーミングサービスだ。田村氏は、Spotifyの特徴は「パーソナライゼーション」だと語る。

 「音楽は、落ち込んだ時にそばにいたり、元気になりたい時に背中を押してくれたりします。Spotifyは、そういった“感情に寄り添う”サービスです。私たちはマインドやムードに関するデータを活用し、それを基に『ユーザーが今この瞬間に聴きたい曲』をレコメンドしているんです」(田村氏)

 その象徴が、ユーザーの好みに合わせて1日に何度も更新されるプレイリスト「daylist」だ。過去には、「あなたのdaylistを見せてくれたら、何も言わなくてもあなたがどういう人なのか分かる」「私のセラピストよりも、Spotifyの方が私のことをよく知っている」という趣旨のSNSの投稿がバズったこともあるそうだ。


Spotify(セミナー資料より)

 一方、Spotifyの主なユーザー像は、「若年層」「日中の“ながら時間”の利用者」、そして「パーソナライズされた空間でのコミュニケーションを求める層」だと田村氏は話す。

 「私には16歳の娘がいるのですが、リビングでアニメを見ながらゲームをしています。そこにさらにiPadで絵を描き、LINEをチェックし、ヘッドホンでSpotifyを聴いてるんです。今の若い世代には、隙間時間なんてないんですよね」(田村氏)

 田村氏はこのように、現代の若者の複雑な情報接触スタイルを例に挙げた。つまり、企業がユーザーとコミュニケーションをとるには、これからは“ながら時間”の活用が求められるのだ。

 また田村氏は、コミュニケーションを取る「空間」の重要性についても述べた。

 「例えば渋谷のスクランブル交差点で広告を見るのと、落ち着ける自室で広告を見るのとでは、感じ方も違うと思うんですよね。Spotifyは、そういったマインドやムードを捉えられる点を評価いただいているな、と感じています」(田村氏)


Spotifyの利用者は、何か別のことをしながら利用するケースが多い(セミナー資料より)

 一方で田村氏は、自身が生活者として情報にどう接し、どう感じるかを大切にしていると話した。

 「自分や家族、そして社内のメンバーはもちろん、お客さまも一緒になってPDCAを回しています。特に私たちテック系のサービスは、トレンドの変化がとにかく早いんです。ですから、その変化の先取りが大事だと思っています。トレンドが来る前に、変化を察知して優先順位をつけてコミュニケーションをとるようにしています」(田村氏)

まとめ

 最後に髙口氏は、両社のコミュニケーション戦略の違いを次のようにまとめた。

 「ZENBは、トレンドに左右されづらい『食』がテーマですよね。人それぞれ考え方はあるけれど、『あなたの理想の食事はどう?』と、まず問いかける。そして、理想の食事とZENBが提供するものが合致する、つまり実利的なメリットがあるところからスタートする。その文脈の先に、ブランドの思想への共感があるから、顧客に響いているのかもしれません」

 「一方Spotifyは、猫の目のように変わる人々の感性や時代を先回りして、価値を提供する必要がある、と。食のように基本的に変わることのない人間の心理を扱うのとは、また違うコミュニケーションが求められる。お二人の話から、それが今回の2社の違いなのかな、と感じました」(髙口氏)

 今回のセッションでは、「実体のあるもの」を扱うZENBと、「無形の体験」を提供するSpotifyという、対照的なビジネスモデルを持つ2社が、それぞれどのように顧客と向き合い、選ばれるブランドを構築しているかが語られた。

 ZENBは、当初の思想的アプローチから、顧客の反応を見ながら「実利」をフックに「エモーション」に訴えかける戦略へと進化させた。一方Spotifyは、めまぐるしく変わる現代人のライフスタイルや感情の機微をデータと感性で捉え、「パーソナライズ」された体験を提供し続けることで、顧客との強い絆を築いている。

 両社に共通するのは、ターゲット顧客の表面的なニーズだけでなく、その奥にある価値観やライフスタイル、そして「本能」や「感情」といった深層心理までを深く洞察しようとする姿勢だ。これからのブランドコミュニケーションにおいては、論理的な便益の訴求だけでなく、顧客の心に深く響き、感情的なつながりを生み出すアプローチがますます重要になるだろう。

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