最高水準金利は“もろ刃の剣” 松井証券が迎える次の試練(1/4 ページ)
松井証券の「MATSUI Bank」が業界最高金利0.41%で注目を集めている。独立系ならではの戦略で急成長を遂げる一方、その裏には高金利ゆえのリスクも――。この“諸刃の剣”に、松井はどう挑むのか。
筆者プロフィール:斎藤健二
金融・Fintechジャーナリスト。2000年よりWebメディア運営に従事し、アイティメディア社にて複数媒体の創刊編集長を務めたほか、ビジネスメディアやねとらぼなどの創刊に携わる。2023年に独立し、ネット証券やネット銀行、仮想通貨業界などのネット金融のほか、Fintech業界の取材を続けている。
普通預金金利年0.41%、預金残高624億円、口座数11万口座――。松井証券が2023年10月に開始した「MATSUI Bank」は、メガバンクの0.2%と比較して実に2倍以上の金利水準を実現している。これは高金利をうたう他のネット銀行に比べても最高水準だ。特に、複雑な条件がなくシンプルな普通預金に付く金利としては随一である。これは、日銀の利上げに合わせて段階的に引き上げ、常に「業界最高水準」を維持してきた結果でもある。
高金利を背景に預金残高も急増。預金残高624億円は、数兆円〜十数兆円規模の大手ネット銀行と比べれば小ぶりだが、それでも中堅信用金庫に匹敵する水準だ。開始から1年半という期間も合わせて考えれば、独立系証券会社による銀行事業としては短期間での急成長といえる。
この背景には、従来の銀行・証券サービスとは異なるアプローチがある。証券会社が銀行サービスを「入り口」として活用し、最終的に証券取引へと顧客を誘導するというものだ。
独立系証券が直面する「入金の壁」
MATSUI Bankの戦略を理解するには、松井証券が抱えてきた構造的な課題を知る必要がある。それは証券業界共通の悩みでもある「入金問題」だ。
「まず、最初のステップとして証券口座に入金をしていただかないと取引につながりません。当社はもともとこれを課題視していました」。松井証券事業開発部副部長の渡瀬裕之氏はこう振り返る。
問題は、松井証券が独立系企業であることに起因する。「大手ネット証券のように、グループ企業として銀行を持ってないので、なかなかスムーズな銀行入金ができない」状況が続いていた。「入金数は少なく、証券口座を開設したのに
入金することなくやめてしまう方」も相当数いたという。
MATSUI Bankでは、銀行口座と証券口座の間で資金をスムーズに移動できる「スイープ機能」を利用できる。高金利を背景にお金を集め、株式などの注文時は自動的に銀行から出金できるようにすることで、入金のハードルを低くする。
グループ内に銀行を持たない独立系証券会社にとって、顧客の資金をいかにスムーズに呼び込むかは重要課題だったわけだ。
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