その採用、大丈夫? 日本にも広がる「民間企業のスパイ活動」:世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)
日本企業の情報が盗まれて海外に渡るケースが増えており、「企業インテリジェンス」が注目されている。世界的な調査会社の日本支社長に取材すると、その活動の一端が見えてきた。企業のビジネスを守るために、どのような対策が必要なのか。
経済を守ることは、国を守ること
ここまで見てきた以外にも、厳しいビジネス環境で勝ち残っていくために、「企業がビジネス戦略を立てる際に理解しておきたい競合の情報も、不正競争防止法に抵触しないよう細心の注意を払いながら、インテリジェンスを提供しています」と、山﨑氏は言う。実は、そのような依頼が増えているという。
海外では、企業が円滑にビジネスを行っていくために、こうした企業インテリジェンスの会社が水面下で支えるのが常識だ。日本でも一部大手企業において、大金が動くM&Aなどの際にこうした企業を使うことがあるが、まだ諸外国のように一般化していない。
企業インテリジェンスは、映画に出てくるスパイ組織のように見えるが、山﨑氏いわく「違法な手段を使った情報収集などの活動は決して行いません」。本社が米国にあるだけに、事業におけるコンプライアンス意識は非常に高い。
筆者が3月に取材した、最近まで米CIA(中央情報局)で働いていた元幹部はこんなことを言っていた。「国家においては軍、日本なら自衛隊が国を守る存在であるが、実は本当の意味で国家を支えているのは経済だということを忘れてはいけない。経済を守ることが国を守ることになるのです」
つまり、経済活動が国家の基盤であり、そこをライバル国などは狙ってくる。だからこそ、経済活動を守らないと国は衰退していく。
日本も例外ではない。山﨑氏は「まだ日本企業は、インテリジェンス分野での収集能力が乏しいといえます。社内に情報を扱うエキスパートがいない場合が多く、プロフェッショナル(専門職)も少ない。まだ感度が低いと感じています」と指摘する。
日本国内での成長のみならず、世界と肩を並べていくためにも、日本企業はビジネス分野におけるインテリジェンスを活用していくべきではないだろうか。
筆者プロフィール:
山田敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)、『死体格差 異状死17万人の衝撃』(新潮社)、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。
Twitter: @yamadajour、公式YouTube「SPYチャンネル」
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