早期退職ブームの裏で 中高年を「頼れるおじさん」に育てられる職場、3つのポイント:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/3 ページ)
希望退職という名の“肩叩き”が拡大する一方で、“潜在能力”に期待し能力発揮の機会を拡大する企業が増えてきました。50歳になった途端、まるで在庫一掃セールにでもかけるように、賃金を下げ、閑職に追いやり、「早くお引き取りいただきたい」圧をあの手この手で企業はかけつづけてきましたが、その不遇にピリオドを打つ動きが広がりつつあります。
セカンドキャリアを成功させる「3つの要因」
そもそも人生の午後は、考える以上に長いです。「私」が主体的に動けば、その長い期間は確実に面白くなります。そこで筆者が何年にもわたりキャリア研究を続ける中で確信した、40〜50代の中高年がセカンドキャリアを成功させる「3つの要因」を紹介します。
(1)ベテラン会社員の切り札=暗黙知を生かす
「暗黙知」は音の聞き分け方や顔の見分け方、場の空気感など、同じことを繰り返す中で手に入る「言葉にされていない知識」のこと。暗黙知は中高年の最大の価値。失敗を経験した人ほど、自分で考え、工夫し、知恵を使う癖がつくので「自分は最初あまり得意ではなかったけれど、だんだんとうまくできるようになった」ものほど、暗黙知として体の奥底まで刻まれていきます。
自分が日々やっている、あるいはやってきたタスクを書き出し、苦労した経験を思い出すと、「私」の暗黙知の輪郭が見えると思います。どんな会社に入っても、どんな業種であろうとも、暗黙知は必ず役立ちます。仕事で必要なスキルは会社の教育制度や学び直しで身に付けながら、「私」の暗黙知を生かす働き方を加えれば、唯一無二の存在になれますのでセカンドキャリア選びの参考にしてください。
(2)半径3メートル世界の他者とゆるくつながる
「ねぇ、ちょっとちょっと」と、顔をみて声をかけられる半径3メートルの人たちと、ゆるくつながってください。幼稚園で教わった素朴な人としての振る舞いを大切いするだけでいい。「おはよう」「ありがとう」「ごめんなさい」「ご苦労さま」と声に出せば、誰とでもゆるくつながることが可能です。
それができるようになれば、「学びに方向性はない」という当たり前の事実に気付かされ、「へ〜そうなんだ!」と面白さの種をたくさん収穫できます。学ぼうとする謙虚さのある人は、周りから重宝がられる「頼れるおじさん、おばさん」になりますから、まずはあいさつからやってみてください。
(3)役割経験を生かす
会社員としての生活だけではなく、「母」として、「父」として、「市民」として、人生のある年齢や場面でさまざまな役割を演じていた人ほど、セカンドキャリアで成功します。「こんなことが仕事につながるとは思わなかった」と彼らは口々に言うのです。セカンドキャリアでは、職業人としてだけではなく、例えばボランティアなど「人の役に立つ」経験が生かされます。「やってみようかな?」と思ったら「とにかく具体的に動く!」を徹底してください。
増え続ける中高年を生かせない企業に未来はありません。企業の経営層や人事は、まずは社員を「信頼する」こと。その上で彼ら・彼女らに「能力発揮の機会」と、がんばったら報われる人事制度をデザインしてみてください。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)、『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか - 中年以降のキャリア論 -』(ワニブックスPLUS新書)、『働かないニッポン』 (日経プレミアシリーズ) など。
新刊『伝えてスッキリ! 魔法の言葉』(きずな出版)発売中。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
「また休むの?」子育て社員に“絶対言えない本音”──周囲が苦しむサポート体制から脱せるか
人に寄り添った“あたたかい制度”であるはずの「育児休暇制度」。しかし、現状はたくさんの人がしんどい思いをし、不機嫌になっている。こうした中、子育て社員と子育て社員をサポートする社員の「心の壁」を解決しようと、会社側が動き出した。
自ら“窓際社員”になる若者──「静かな退職」が増えるワケ
最近の若い人たちは、人生設計がしっかりしている。しかし、仕事のプライオリティは確実に下がっている──。そんな悩みを、リーダー職に就く方々から聞くことがよくあります。米国では「必要以上に一生懸命働くのをやめよう」という「静かな退職」が話題になりました。なぜ、このような現象が起きるのか、そしてマネジャー層はどのように対応すべきなのか。健康経営学者の河合薫氏が解説します。
「育休はなくす、その代わり……」 子なし社員への「不公平対策」が生んだ、予想外の結果
出生率が過去最低となり、東京都ではついに「1」を下回ったことが大きく話題になっています。結婚や出産を希望する人が、安心してその未来を選べるようにするために、企業ができることは何か。「育児休暇をあえてなくした企業」の事例をもとに、社員を疲弊させない経営戦略について考えます。
「年功序列=悪」は本当か? 三井住友銀行が堂々と廃止できたワケ
三井住友銀行は、2026年1月をめどに人事制度を変更し年功序列を廃止する方針を示した。年功序列や長期雇用は過去のものと考える人も少なくないが、こうした制度にはそれぞれの利点がある、ではなぜ、三井住友銀行は年功序列を廃止するのか。その真意に迫る。
米Amazon、Googleも出社回帰 なぜ、わざわざ脱リモートするのか?
米Amazonがリモート勤務を原則廃止し、週5日出社に戻すと報道された。なぜ、リモートワークもできる世界的なIT企業がリアル出社に回帰しているのか。チームの生産性を向上させるには、どうしたらいいのだろうか。
