老舗薬局の社長が「ヒーロー」に、社内の反対押し切りなぜ? 40倍リターンを生んだ「オーガマン」誕生秘話(2/3 ページ)
老舗薬局が直面した経営危機。その打開策は、社長自身がヒーローに“変身”することだった。異色の挑戦が、なぜ年率10%成長を生んだのか?
意外といなかった「薬剤師のヒーロー」
状況を打開する一手は、意外なところから生まれた。きっかけは大賀社長が目にした、医師がヒーローに変身して敵と戦うテレビ番組だった。
「病院が舞台で、医師や看護師はヒーローとして描かれるのに、薬剤師は全く出てこない。薬剤師は患者さんのために日々勉強し、医療事故を防ぐ重要な役割を担っているのに、なぜその価値が世の中に伝わらないのか、と強く感じました」と大賀社長は語る。この気付きが「世界初の“薬剤師のヒーロー”をつくる」というアイデアにつながっていく。
ヒーローをつくる目的は、単に自社の広告塔にするという狙いではなかったという。
「大賀薬局のヒーローではなく、“薬剤師の”ヒーローをつくりたかった。業界全体の価値を高め、薬剤師という仕事の素晴らしさを伝えたい。それができれば結果として、私たちの会社に興味を持つ優秀な人材も集まってくれると考えました」と大賀社長は振り返る。
投資額の40倍の効果を生んだ「ヒーローマーケティング」の全貌
とはいえ、計画は順風満帆ではなかった。大賀氏が社長に就任し、取締役会で「ヒーローになりたい」と宣言した時の役員たちの反応は、「ポカンとして、無反応だった」という。そして当然、「いくらかかるのか」「もうかるのか」と反対意見が矢継ぎ早に出た。さらには「新社長の暴走を止めてくれ」と、メーンバンクの担当者が「刺客」として説得に送り込まれたこともあったそうだ。
だが大賀社長には勝算があった。ヒーローのスーツ制作などにかかる初期費用は、新聞の折り込みチラシを一度打つ費用の半分程度。もちろんコンテンツを維持・発展させていくためのランニングコストはかかるものの、リスクコントロールが可能な範囲内だった。さらに、子どもたちに薬の正しい飲み方を教える「やくいく(薬育)プロジェクト」という社会貢献活動を軸にすることで、幼稚園・保育園への行脚も受け入れられやすいと考えていた。
オーガマンを世に出す上でキーマンとなったのが、ヒーローの敵役を派遣するという、一風変わった事業を展開する「株式会社悪の秘密結社」との出会いである。ヒーロー制作のノウハウを持つ同社と二人三脚でプロジェクトを進めていくうちに、「テレビ番組をやりましょう」と提案されたのが、ヒーロー番組『ドゲンジャーズ』の始まりだった。
コンテンツづくりにおいてこだわったことの一つとして、大賀社長は「公共性」を挙げる。「オーガマン」という社名が入ったヒーローだと、どうしても企業の宣伝色が強くなってしまう。そこで『ドゲンジャーズ』として、他の九州の地元企業がスポンサーとなっているヒーローたちとチームを組むことで、一企業の枠を超えたヒーローキャラクターとして展開していった。
オーガマンは登場直後から話題を呼び、SNSで大きく拡散され、テレビを含むメディアからの取材依頼も相次いだ。ある広告代理店の試算では、広告効果は初期投資の40倍以上に達したという。
大賀薬局の売り上げも年率約10%のペースで増収を続け、2018年9月決算期の249億円から、2024年9月決算期には346.5億円へと約1.4倍に増加した。大賀社長は増収の理由をオーガマンの効果だけではないと断りつつも、その影響は「かなり大きい」と話す。
「知っている会社かどうかというのは、顧客に選ばれる上で大事だと思っていまして。今まで(の薬局ビジネス)は、病院の隣にある薬局に処方箋を持って行くという、立地の勝負が全てでした。
これから電子処方箋になって処方箋が自由に行き来するようになった時、どんな薬局が選ばれるかと言えば、「(顧客が)知っている薬局」に行くだろうなと思いました。
オーガマンというコンテンツがうまくバズって、公共性を持っていろんなところで活動できるようになると、当然、大賀薬局の認知度も合わせて上がってくるだろうなと。
そしてこれがブランディングにもつながり、ヒーローコンテンツを展開する先進的な企業というイメージが定着すれば、採用面でもプラスになるとの考えがありました」
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