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「1000円の着服で退職金1200万円取り消し」「プールの水を止め忘れ賠償金」 これらの懲戒処分は“やりすぎ”か?(2/2 ページ)

「1000円の着服で退職金1200万円取り消し」「プールの水を止め忘れ賠償金」──最近、一見過度に見える懲戒処分が増えているように感じます。

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仕事のミスの延長なのに……小学校教員の「罰金支払い」は妥当か

 川崎市の小学校で起きた、教員がプールの水を流しっぱなしにしてしまった事件は、仕事のミスの延長で起きたことだとも考えられます。教員への罰金支払いという処罰は妥当なのでしょうか?

 まず前提として、労働基準法16条より、労働者のミスなどに対して罰金などのペナルティーを科す制度を設けることは許されません

 一方、従業員のミスなどにより、会社に具体的な損害が生じた場合、従業員に対して損害賠償請求することは可能です。ただし、従業員が故意に加害行為をしたわけではなく、業務をする中でのミス(過失)により損害を生じさせてしまった場合には、賠償請求が認められないか、認められたとしても損害の全額ではなく一部に限るのが裁判の傾向です。これは、損害の公平な分担の観点から、会社は従業員を使用することで利益を得ている以上、その活動により損害を被った場合は会社が負担すべきとの考え方がなされているためです。

 以上は、民間の会社における話です。公立学校における教職員(公務員)が損害を生じさせた場合は、自治体が賠償責任を負い(国家賠償法1条1項)、教職員に故意または重過失があったときは、自治体が教職員個人に対して賠償請求できることになっています(国家賠償法1条2項)。

 自治体が教職員に賠償請求しない場合、住民が不服として住民監査請求を行い、その後、住民訴訟に発展する可能性があります。そこで、自治体は、教職員の過失の程度などを検討し、自ら損害の一部を教職員個人に請求する場合があります。

 民間会社の従業員であれ、公務員であれ、仕事をする中でミスはあり得ることです。判例や法律により、ミスをした個人に対する賠償請求は制限する方向になっており、事案にもよりますが、制限的に考えるべきだと思います。

目標未達で「罰金」「給料からの天引き」は問題?

 ごく稀に、「目標未達の場合の罰金や、給料からの天引き」という処分を設けている企業もあるそうですが、これは労働基準法16条違反になる可能性が高く、問題です。

 また、就業規則の中で、懲戒事由として「勤務成績が著しく不良で、向上の見込みがなく、他の職務にも転換できないなど就業に適さないとき」などの定めを置いている場合、それに触れるとして、目標未達成の従業員に懲戒処分をすることは可能でしょう。


(写真はイメージ、ゲッティイメージズ)

 企業や組織において、不祥事に対する罰則が厳格化する傾向があるのかもしれません。このような「過度な罰則主義」ともいえる風潮が生まれてきた背景には、公務員の場合は、住民監査請求などの関係で、過度とも思われる賠償請求がなされることがあり得るのではないでしょうか。「過度な罰則主義」があるのだとすると、働き手は個人責任を問われることを恐れ、自由に正当な職務の遂行が困難になるといった問題があると考えます。

佐藤みのり 弁護士

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慶應義塾大学法学部政治学科卒業(首席)、同大学院法務研究科修了後、2012年司法試験に合格。複数法律事務所で実務経験を積んだ後、2015年佐藤みのり法律事務所を開設。ハラスメント問題、コンプライアンス問題、子どもの人権問題などに積極的に取り組み、弁護士として活動する傍ら、大学や大学院で教鞭をとり(慶應義塾大学大学院法務研究科助教、デジタルハリウッド大学非常勤講師)、ニュース番組の取材協力や法律コラム・本の執筆など、幅広く活動。ハラスメントや内部通報制度など、企業向け講演会、研修会の講師も務める。


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