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「1000円の着服で退職金1200万円取り消し」「プールの水を止め忘れ賠償金」 これらの懲戒処分は“やりすぎ”か?(1/2 ページ)

「1000円の着服で退職金1200万円取り消し」「プールの水を止め忘れ賠償金」──最近、一見過度に見える懲戒処分が増えているように感じます。

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佐藤みのり 弁護士

慶應義塾大学法学部政治学科卒業(首席)、同大学院法務研究科修了後、2012年司法試験に合格。複数法律事務所で実務経験を積んだ後、2015年佐藤みのり法律事務所を開設。


 京都市営バスのベテランドライバーが「1000円」を着服したとして、懲戒免職、1200万円の退職金を全額不支給となった──このニュースが物議を醸しています(参照:「魔が差した」 1000円の着服で退職金1200万円没収! 京都市バス運転手への厳罰主義は正当か? 人材不足の現場にさらなる懸念も)。

 同様に懲戒処分に関しては、2023年に神奈川県の川崎市の小学校で教員がプールの水を流しっぱなしにしてしまい、高額な賠償の責任を負ったというニュースも話題を集めました(参照:プールの水流出 95万円弁償 教員の責任はどこまで?)。

 これらについては「処罰が重すぎるのではないか」という意見も上がっていますが、適切と言えるのでしょうか? 今回は「懲戒処分」をテーマに、佐藤みのり弁護士が詳しく解説します。

「1000円の着服」で懲戒免職×退職金1200万円不支給……この処分は妥当?

 懲戒処分とは、従業員が業務命令に従わなかったり、企業秩序を乱したりした場合に、制裁として行う不利益措置のことをいいます。懲戒処分の種類は「戒告、譴(けん)責、減給処分、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇」が一般的です。懲戒処分としてどんな種類を設けるかは、法律で定められているわけではなく、会社が自由に決めることができます

 懲戒処分をするためには、就業規則であらかじめ、懲戒処分の種類と事由を定めておく必要があります(労働基準法89条)。また、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当である」と認められない懲戒処分は無効とされています(労働契約法15条)。そのため、有効な懲戒処分をするためには、「従業員の行為が就業規則に定められている懲戒事由に該当すること(客観的に合理的な理由があること)」「処分内容、手続き共に社会通念上、相当であること」が必要になります。

 従業員が不祥事を起こした場合、会社が処分を検討する際は、不祥事の内容、頻度、期間、経緯、動機、(被害者がいる事案では)被害者の人数、加害者と被害者の立場や関係性、不祥事が業務に及ぼした影響、さらには、加害者の反省の程度や、今までの処分歴、会社への貢献度……なども踏まえ、総合的に判断することが求められます。また、過去に類似事例があれば、その事案との均衡がとれているかどうかも考慮しましょう。処分対象者の意見を聞く機会を設け、手続き面でも慎重に進めていくことが必要です。


(写真はイメージ、ゲッティイメージズ)

 京都市営バスのドライバーの件は、懲戒免職処分がなされていますが、懲戒免職処分については、原審(高裁)も最高裁も、共に「適法」と判断しています。

 一般に、着服行為は、業務上横領罪(刑法253条)などの罪に問われることもあり得る悪質な行為であり、裁判でも、懲戒解雇処分が有効と判断される傾向にあります。例えば、過去にバス会社の運転手が、客から受け取った料金3800円を窃取した事案でも、会社が下した懲戒解雇処分は有効とされました。

 本件も被害金額が1000円と少額の事案ではありますが、バスの運転手が通常1人で乗務し、客から直接運賃を受領するという業務の性質を踏まえると、着服行為の悪質性は高く懲戒免職処分もやむを得ないだろうと思います。

 本件では、退職手当など(約1200万円)の全部を不支給とした処分について、高裁と最高裁で判断が分かれました。

 最高裁は、全部不支給とした管理者の判断は「裁量権の範囲内」であると判断しました。その際、考慮した要素としては、以下の4つが挙げられます。

(1)着服行為が重大な非違行為であること

(2)バス運転手は職務の性質上、運賃の適正な取り扱いが強く要請され、着服行為は事業の運営の適正を害するのみならず、事業に対する信頼を大きく損なうものであること

(3)着服行為以外にも勤務の状況が良好でないことを示す事情があったこと

(4)着服行為に至った経緯に特段酌むべき事情はなく、発覚後の態度も誠実なものではなかったこと

 これらの事情に照らせば、

(5)被害金額が1000円であり、被害弁償も行われていること

(6)約29年にわたり勤続し、その間、一般服務や公金などの取り扱いを理由とする懲戒処分を受けたことがないこと

──などを考慮しても、退職手当などを全部不支給とした処分の判断が「社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、またはこれを濫用したものということはできない」と結論付けました。

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