「まさかウチが関係していたなんて」では遅い 日本企業に迫るフェンタニルの影:世界を読み解くニュース・サロン(3/4 ページ)
麻薬のフェンタニルの材料が、中国から日本経由で密輸されていることが報じられた。米国では大きな問題になっており、中国が現代版の「アヘン戦争」を仕掛けているともいわれる。日本企業のビジネスにもリスクを伴う。何に気を付けるべきなのか。
米国は中国にプレッシャーをかけるが……
ただ表向きは、米国からのプレッシャーもあって、中国政府は2019年に国内でフェンタニルの製造を禁止した。しかし米政府によれば、それ以降、フェンタニルの原料である前駆体物質が中国から大量に輸出されるようになったのが確認されている。しかも、米国には直接輸出せず、先に述べた通り、カナダやメキシコ経由で輸出を続けている。今では前駆体などのほとんどが中国で生産されているという。
例えばメキシコでは、シナロア・カルテルやハリスコ新世代カルテルといったマフィアが前駆体を受け取り、錠剤などを製造して米国に密輸する。
2024年版の米国家ドラッグ脅威評価のリポートによれば、ハリスコ新世代カルテルが日本やオーストラリアとも麻薬の取引をしていると指摘している。つまり、何年も前から、メキシコのマフィアが日本を経由して中国などから薬物を入手している。
日本の警察当局によれば、日本ではまだフェンタニルはまん延していない。その理由として、一説に「日本を経由する際には、完成品のフェンタニルではなく前駆体の形であることが多く、日本で売るためには、メキシコなどから逆輸入する必要がある」からだという。
米中関係で見ると、第二次トランプ政権になってから、中国へのプレッシャーはさらに強まっている。トランプ大統領は就任直後、フェンタニルなどの薬物は中国から来ており、国家緊急事態にもなっているとし、2025年2月4日から中国の全ての品目に対して追加で10%(後に20%に)の従価税率を課す大統領令を発表した。
米議会の「米国と中国共産党・戦略的競争に関する特別委員会」はフェンタニルについて徹底した調査を行っている。2024年の調査結果によると、同委員会は中国で公開されているWebサイトの徹底的な調査、中国政府文書の分析、オンラインのデータ分析によって、麻薬をオンラインで販売している中国企業に関する3万7000以上のデータを取得し、中国の麻薬密売会社との「覆面」通信、専門家との協議などを行った。
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