軽視できない「職場の孤独」 解決のヒントは日本の高度成長期にあった:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/3 ページ)
ちょっと前には「若者の孤独」が話題になりましたが、今度は「中高年の孤独」に関心が集まっています。「孤独は別に悪いことじゃない」という意見も聞きますが、深刻な問題を引き起こす孤独もあるのです。
「ソーシャル・キャピタル」という考え方
寂しい孤独=lonelinessを慢性的に感じていると、それが血流や内臓のうねりのごとく体内の深部にまで入り込み、心臓病や脳卒中、がんのリスクを高めるなど心身にダメージを与えます。心理的にも負荷がかかり、鬱(うつ)傾向になったり、認知機能が低下したり。以前、孤独に関する調査でインタビューした男性は、孤独感を「自分だけ穴の中に落ちていく感覚」と表現していました。
望まない孤独はもはや心の問題ではなく、肉体的な病です。孤独=沼を抜け出すには「他者」の存在が欠かせません。
そこでまずは「あなた」に、あなたの半径3メートル世界のチームメンバーを見渡してほしいのです。そして「声をかける手間」を惜しまないでほしい。「あなたをちゃんと見ているよ、ちゃんと分かっているよ」という気持ちを声に出して、半径3メートルの部下や同僚にたった一言でいいからメッセージを送ってほしい、愛をケチらないでほしい。
それは決して難しいことではありません。幼稚園で教わった素朴な人としての振る舞い、すなわち「おはよう」「ありがとう」「ごめんなさい」「ご苦労さま」と元気よく声にするだけでいい。相手が年上であれ、年下であれ、関係ありません。ただの「人」として、ゆるくつながるために「声」をかけてください。「あなた」のちょっとした行いで、救われる“仲間“が必ずいます。人は自分にアテンションしてほしい、「私はここにいるんだ」と叫びたいのです。
もし、会議で発言しないメンバーがいたら「あなたの立場で思うことを教えてほしい」と巻き込む。相手が年長の人であれば「〇〇さんの経験から、どう思うのか聞かせてください」と年長者としての立場に敬意を払う。少しだけ元気な人が、少しだけ元気のない人に愛をケチらない半径3メートル世界が職場のあちこちにできあがれば、「あなたの職場」が潤います。
このような声掛けは「ソーシャル・キャピタル」を豊かにする行為です。ソーシャル・キャピタルとは、分かりやすく言い換えると企業に内在する“目に見えない力”のこと。それは、人々の積極的なつながりによって構成され、自分の目的の達成を気にかける個人の集団ではなく、団結して戦う“協力グループ”が実現します。
「キャピタル=資本」という言葉が使われるのは、投資がリターンを生み出すことを強調するためです。ソーシャル・キャピタルは「人と人のつながりに対する投資」で、生産性を向上させるというリターンにつながります。
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