「国産VS.アジアン」選ぶ理由が変わった タイヤ市場の二極化とメーカーの打ち手:高根英幸 「クルマのミライ」(5/5 ページ)
クルマを支えているタイヤ。実績のある国産タイヤメーカーのほか、近年はアジアンタイヤも広まっている。安さと安心でユーザーの選択は二極化している。ブリヂストンやダンロップなどは、時代の変化に合わせてどのように技術や戦略を進化させているのか。
「安かろう悪かろう」は過去の話
最近は、ホイールにはお金をかけてもタイヤはアジアンを選ぶ、というクルマ好きも珍しくない。タイヤは消耗品だから、お金をかけるのがもったいないという考えから、そういう選択をするケースもあるようだ。
確かに、どうせすり減ってしまうのだから安いモノを選びたいというユーザー心理も分からなくはないが、冒頭で触れた言葉を思い出してほしい。「タイヤがクルマを支えている唯一の部品」なのだ。路面と接触しているタイヤがクルマの性能を決め、安全性を確保していることを忘れてはならない。
クルマの性能が高まった結果、タイヤ性能の差を感じにくいユーザーもいるようだ。そのため、どれを履いても違いが分からないため、安いタイヤへと流れている。
しかし、価格を重視して選んだ結果、もし走行中にバーストしてホイールまで使えなくなってしまったら、高い買い物になってしまう。また、安いタイヤはウエット性能も低くなりがちだ。ウエット走行で急ブレーキをかけ、制動距離が長いために衝突事故を避けられなかった、というケースもあり得る。
アジアンタイヤでも価格差があり、性能もさまざまであるようだ。筆者所有の1台にはアジアンタイヤが装着されているが、日常的な使い方ではそれほど不満は感じない。一般道を普通に走るだけなら、これで十分と判断するユーザーがいるのもうなずける。
価格を優先する向きにブリヂストンが提案しているのが、スタンダードタイヤであるNEWNOだ。これは同社の最新タイヤ設計技術を用いて開発され、主にアジア圏で生産することで低価格を実現している。
アジアンタイヤのほうが価格は安いものの、品質による安心感を加味してNEWNOを選ぶというユーザーも増えている。これから低価格帯のタイヤ販売も競争が激化しそうな様相だ。
国産タイヤメーカーは差別化を図り、アジアンタイヤとのすみ分けが進んでいる。安さを取るか安心を取るかでユーザーの傾向は二極化しているようだ。
ユーザーが情報発信する機会が増えた昨今は、口コミが広がりやすい環境にある。価格と性能のバランスが取れた製品が、今後さらに市場で選ばれるはずだ。
筆者プロフィール:高根英幸
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmedia ビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。著書に「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。近著は「きちんと知りたい! 電気自動車用パワーユニットの必須知識」(日刊工業新聞社刊)、「ロードバイクの素材と構造の進化」(グランプリ出版刊)。
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