80兆円投資のトランプ関税合意、一番損するのは「米国の一般国民」だといえる理由(2/3 ページ)
2025年7月、日米が追加関税の引き下げと80兆円の対米投資で合意。市場は好感したが、雇用統計の悪化や米国民への負担増が浮き彫りに。損をしているのは本当に日本なのか――その構造に迫る。
「利益の90%をアメリカが取る」が意味するもの
合意を巡っては、「利益の90%はアメリカが取る」とするトランプ大統領やラトニック商務長官の発言が波紋を広げた。この発言を受けて、日本国内では「日本はATMにされた」との批判も相次いだ。
しかし、市場関係者の多くはこの発言を、単なる皮肉ではなく、米国内での経済循環を意識した表現と読み解いている。すなわち、今回のディールで得られた利益が、雇用や設備投資というかたちで米国内に再投資され、その結果として法人税収や賃金が増加し、米国経済全体に還元される――という構図だ。
これは企業経営の文脈でいえば、「投資で得た利益の約9割を再投資・人件費・納税に回し、残り1割が配当として株主に還元される」ようなモデルと類似している。このような資金循環は米国企業でも一般的であり、必ずしも日本が一方的に“搾取されている”とは言い切れない。
米国民が支払う「アメリカファースト」の代償
ただし、関税政策が最終的にどこにツケを回すかを考えたとき、損をするのはむしろ米国の一般国民ではないか、という視点も必要だ。
関税によって米国製品が優位になる構図は、製品の品質が同等で、かつ価格が主要な判断軸である場合には機能する。だが、ブランドが指名買いされるような製品分野では、消費者が価格以上に品質や信頼性を重視する傾向がある。その場合、関税は有効に作用しない。
実際、2025年7月に発表された米雇用統計は、市場予想を大きく下回る非農業部門雇用者数(7万3000人増)にとどまり、失業率も4.2%に悪化。5月・6月分も大幅に下方修正され、労働市場の鈍化傾向が顕在化した。
一部のエコノミストは、こうした雇用の伸び悩みの背景に、トランプ政権の関税政策があると指摘する。関税によって輸入コストが上昇し、企業の設備投資や人材採用が抑制されているという見方だ。結果として、米国民の雇用機会が減少し、生活コストは上昇。消費も萎縮し、経済成長の足かせとなる恐れがある。
統計発表を受けて、週明けの東京市場では日経平均株価が一時900円超下落し、4万円の大台を割り込んだ。米国株も売られ、為替は円高に進行。世界の金融市場は大きく揺れ動いた。
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