「舌打ち」「無視」が若手を追い込む 中高年が知らぬ間に加害者になる「グレーゾーンハラスメント」の怖さ:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/3 ページ)
ハラスメントとまではいえないが不快感や戸惑いを覚える言動を指す「グレーゾーンハラスメント」に関するアンケート結果が公表されました。今回は調査結果からあれこれ考えてみようと思います。
「風通しをよくするため」に企業がすべきこと
では、企業はどうすればいいのか? それは「風通しをよくすること」に尽きます。
社員一人一人が生き生きと働いている「元気な職場」には、パワハラを訴える社員はめったにいませんし、上司や先輩とのコミュニケーションに不愉快さを訴える人もいません。さまざまかつ複雑な感情がよどみなく流れる、風通しの良さが存在するので、ネガティブな感情が生まれてもすぐに解消されるのです。
ただし、風通しのいい元気な職場づくりは組織風土を変える試みなので、組織の経営戦略として取り組まない限り、うまくいきません。そこで役立つのが、「管理職教育」の徹底です。
欧米では、マネジャーへのEI(Emotional Intelligence、感情的知性)を向上させる教育が徹底されています。EIは「感情を認識し、理解し、管理し、活用する能力」のことで、マネジャーには自分だけでなく部下の感情を理解し、活用する能力が求められます。
それは「豊かな人間関係を育み、部下の自己肯定感を高め、やる気を向上させる」スキルです。EIは相手の心情を鑑みつつも、自分の言うべきことを伝えるスキル向上につながるため、上司とのコミュニケーションに不快感を抱いたり、傷付いたりする社員を減らすことになります。
片や、日本ではマネジャー=管理職と呼びながらも、チームメンバー内の人事権も裁量権も与えられず、それでいて「パワハラ」などの問題を組織的な問題としてではなく、加害者と被害者との個人間の問題にしがちです。
新しい言葉が生まれ、広がるのは、その言葉がよく当てはまる問題があっちこっちで起こり、何らかの共通ワードが求められているからにほかなりません。それまで仕方がないと諦めたり、なかったことにされたりした問題を、「共通ワード」があれば顕在化でき、涙するしかなかった人を助けられます。つまり、今回の「グレーゾーンハラスメント」という新語も、その一つです。
コミュニケーション不全は、全ての問題の原点です。企業側は企業戦略として「風通しをよくするには何を、どうすればいいのか?」を徹底的に考え、実行し、うまくいかなければ改善する、を繰り返してください。
そして、「10歳以上」の社員はパワハラやグレーゾーンハラスメントの加害者にならないために、部下や後輩と話すときは「相手も立派な会社員」と強く意識してください。その意識があれば、ため息、舌打ち、あいさつを返さないなどの行為はなくなるはずです。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)、『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか - 中年以降のキャリア論 -』(ワニブックスPLUS新書)、『働かないニッポン』 (日経プレミアシリーズ) など。
新刊『伝えてスッキリ! 魔法の言葉』(きずな出版)発売中。
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