「健康ミネラルむぎ茶」が過去最高の売上 伊藤園に聞く、麦茶市場が「約2倍」に成長したワケ(2/2 ページ)
伊藤園「健康ミネラルむぎ茶」の7月の販売数量が1億本を突破し、7月単月で過去最高を記録した。麦茶飲料市場の状況を、同社マーケティング本部の黒岡雅康マネジャーに聞いた。
MLBコラボで拡げる幅広い世代への接点
――MLBとのコラボ施策で最も意識しているターゲット層は何ですか。
MLBで活躍している選手の影響もあり、若い方々にスポーツや野球への興味が高まっている印象を個人的に持っています。一方で例えば大谷翔平選手のようなスターを応援しているのは年配の方も多く、実際に幅広い年齢層でMLBに注目が集まっています。
今回のコラボを通じて、野球に詳しくない方や大谷選手しか知らなかったという方にも、もう少しMLBの世界全体への興味を持ってもらえるきっかけになればと考えています。
――笑福亭鶴瓶さんがCMキャラクターを26年間も担当しているのは、飲料業界でも非常に珍しいことだと思います。起用の理由についてお聞かせください。
鶴瓶さんには本当に長く協力いただき、感謝しています。鶴瓶さんは世代を問わず愛されるキャラクターです。小さなお子さんからご年配の方まで親しみがあり、麦茶もまた幅広い年代に安心して飲める飲料であるため、その点でイメージがぴったり重なります。
カフェインが入っていないので小さなお子さんも安心して飲めますし、年配の方にもおすすめできます。だからこそ、どの世代からも支持される鶴瓶さんに長くお願いしています。
――近年は海外からのインバウンド需要も増えています。緑茶は積極的に海外に打って出ていますが、麦茶も海外で受け入れられる可能性について、どのように考えていますか。
現状では、海外で麦茶の知名度はあまり高くありません。アジア圏、例えば韓国や中国、東南アジアの一部ではもともと麦茶を飲む文化がありますが、欧米では、伝統的に紅茶やグリーンティー(緑茶)が主流で、麦茶はほとんど知られていません。
ただ、「未知」であるというのは、逆に言えば可能性が大きいともいえます。インバウンドで日本に来た方々が日本の家庭的な味や、日常のお茶文化に触れることで、麦茶の良さにも関心をもっていただける時代が来ると期待しています。私たちもそうした機会を大切にしたいと考えています。
多様化する無糖茶飲料の市場展開
――黒岡さんが「健康ミネラルむぎ茶」のご担当になった経緯について教えてください。
マネージャーとしては現在3年目になりますが、その前に実務の担当を約2年半務めていましたので、通算で5年ほどこのブランドに携わっています。私は緑茶以外の茶系飲料全てを担当しています。例えば黒豆茶やそば茶、ウーロン茶やジャスミン茶など、中国系のお茶も含めて、緑茶以外の茶系飲料全般が担当領域になっています。マーケティング自体には、アシスタント時代も含めて、通算18年ほど従事しています。
――マーケターとして大切にしていることは何ですか。
基本的に「お客さま目線」を大切にしています。商品や売り場づくりは、会社の方針や流通の事情など、大人の事情が絡んでくるものですが、一番大事なのは純粋にお客さまがいま何を求めているのかを見極めることだと思っています。そのためにネットのデータやトレンドも活用しますが、やはり日頃から「現場」を観察することを重視しています。
街中やスーパーでお客さまが何を買っているのか、行列ができている店は何が人気なのかなど、実際の消費行動からヒントを得ることが多いです。食品以外にも、日用品や身の回りのものでも多くの気付きがあります。そういった現場観察を積み重ね、「なぜこれが売れているのか」を考えることで、消費者の本質的なニーズをつかむよう意識しています。
――緑茶以外の茶系飲料全般を担当しているとのことですが、麦茶以外の無糖茶飲料のビジネスの可能性をどう見ていますか。
近年ではジャスミン茶や黒豆茶なども徐々に市場が拡大してきています。マーケットとしてはまだ小さいジャンルですが、成長率は非常に高いです。消費者のお茶に対する興味やニーズが、かつての緑茶一辺倒から多様化してきていると感じます。また、「いろんなお茶を飲んでみたい」という消費者の期待感が、新しい商品や提案を後押ししてくれていると実感しています。健康意識や無糖、ノンカフェイン志向も含めて、これからも幅広い価値が生まれてくる領域だと思います。
麦茶の訴求拡大と市場成長の展望
――今後のプロモーション展開について、麦茶のどのような訴求や展開を考えていますか。
今後も引き続きスポーツシーンを重視したアプローチを考えています。現在、その象徴的な企画としてMLBとのコラボパッケージを展開していますが、それだけでなく、「汗をかくシーン」に着目して麦茶の魅力を伝えたいと考えています。
暑さ対策はもちろん、スポーツや日常のさまざまな汗をかくタイミングで、「キンキンに冷えた麦茶が一番うまい」と実感できるプロモーションを考えてきました。麦茶といえば夏の飲み物というイメージが強いですが、実際には夏に限らず、1年を通して汗をかいた際の飲料として提案することが重要だと感じています。
――麦茶が今後、市場をどこまで広げていけると考えていますか。
麦茶にはまだまだ大きな可能性があると考えています。自身を振り返ってみても、子どもの頃から家で麦茶を飲んで育ち、今でも最も身近な飲み物は麦茶です。ペットボトル緑茶が健康や機能性によって発展してきた一方で、麦茶はずっと「家庭の日常」に根付いてきました。
市場規模でいうと、麦茶は緑茶の3分の1ほどですが、日本の暑さやカフェインゼロ、そして何より生活に溶け込んだ安心感を追い風に、今後さらに緑茶に肩を並べるほど成長できると信じています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
キリン「晴れ風」が絶好調 “ビール好き”以外をどうやって取り込んだ?
キリンビールが4月に発売した17年ぶりのスタンダードビールの新ブランド「晴れ風」の勢いが止まらない。11月13日には年間販売が500万ケースを突破した。なぜここまで売れたのか。同社ビール類カテゴリー戦略担当の小澤啓介氏に話を聞いた。
キリンビールの「本麒麟」が好調 敏腕マーケターに聞く「売れ続ける理由」
キリンビールのビール類の販売量が減っている中、気を吐いているのが新ジャンル(第3のビール)の「本麒麟」だ。マーケティング本部の松村孝弘ブランドマネージャーに開発コンセプトを聞いた。
苦戦のコーヒー業界で黒字転換 「豆で勝負した」タリーズが狙うのは“在宅需要”
伊藤園の2021年5〜22年1月期の連結決算ではタリーズコーヒー事業の営業損益は8億2200万円の黒字へ転換し、苦戦が続く飲食業界のなかで光明を見いだしている。黒字転換の要因は何なのか。タリーズコーヒージャパンのマーケティング本部でグループ長に、国内のコーヒー市場の変化に対するタリーズコーヒーの戦略を聞いた。
緑茶リニューアル対決 シェアトップの伊藤園が、"定番"でも変化し続ける理由
お〜いお茶』に15年以上に携わってきた伊藤園マーケティング本部 緑茶飲料ブランドマネジャーの安田哲也氏に、緑茶界の”横綱”伊藤園『お〜いお茶』のマーケティング戦略と、22年の新たな挑戦を聞いた。
オリオンビール、発売1年未満で缶チューハイをリブランド リピート率が高かったのに、なぜ?
オリオンビールのnatura WATTAは、沖縄県産の果実で、かつ防腐剤およびワックス不使用のものだけを原材料として活用。消費者のウケは悪くなかったものの、ビジネス上の課題もあってなかなか売り上げ拡大につながらなかった。そうした反省を踏まえて、発売から1年もたたない今年7月に商品のリブランドに踏み切ったのである。その背景を取材した。
午後7時閉店でも店長年収1000万円超え! 愛知県「地元密着スーパー」絶好調の秘密
愛知県東三河地方だけに5店舗しか展開していない「絶好調」のスーパーがある。「社員第一主義」を掲げ午後7時には閉店しているのに、店長の年収は1000万円を超える。その秘密に迫った。
「ふらのワイン」の販売不振をどう解決する? 北大博士課程の学生が奮闘
4年連続で赤字になる見通しで、なんとか売り上げを伸ばしていきたい「ふらのワイン」。販売不振に北大の博士課程の学生が奮闘した。彼らはリピーターの購入商品に着目し、ある提案をしたのだが……。


