「そのプロンプト、危険かも?」 生成AIの社内利用に潜む“落とし穴”とは(3/3 ページ)
国内外ですでに発生しているさまざまなAI関連トラブルを具体的に紹介しながら、企業が今すぐ整備すべき対策や、ガイドライン策定の考え方について、解説していきます。
明日から始められる3つのステップ
ここまで、国内外のトラブル事例やガイドラインの要点を整理してきました。
とはいえ、「じゃあ自社では何から着手すればいいのか?」という問いに直面している方も多いのではないでしょうか。
ここでは、筆者が実際に企業支援を行う中で成果が出ている“現場で実装しやすい”対策を、シンプルにご紹介します。
(1)AIの「使いどころ」と「NG情報」を決めておく
どんな業務にAIを使ってよくて、どんな情報は入力してはいけないのか。これを最初に決めておくだけで、現場の混乱や誤った使い方を大きく防げます。
例えば:
- 活用OKな業務例:プレスリリースの草案、社内報のアイデア出し、Q&Aの自動生成など
- NG情報例:個人情報、開発中の製品情報、取引先との契約条件など
これらを社内ポータルに共有するだけでも、大きなリスク対策になります。
(2)出力結果は「必ず人が確認する」ことをルールに
AIの文章は“たたき台”としては便利ですが、そのまま外に出すのは危険です。
必ず人間の目でチェックし、必要に応じて修正しましょう。
メール本文やSNS投稿、ニュースリリースの草案などは、「AIが書いたからこそ」間違いが起こる可能性があると意識することが大切です。
(3)「AIを使ったことを知らせるべき場面」を決める
FAQや自社メディアの記事、広告クリエイティブなど、AIが作った内容をそのまま使う場合は、必要に応じて「これはAIで作成しました」と明示するルールを定めておきましょう。
どの場面で開示するかは、業界や社内の方針に応じて判断すべきですが、少なくともルールが何もない状態は避けるべきです。
ルールは“つくって終わり”じゃない──定着・運用の工夫
著者は、現在複数の企業でAI活用支援やリスクマネジメントの伴走支援を行っています。そこで痛感するのは、「完璧なガイドラインを最初から作ることは不可能」という事実です。
むしろ、まずは最低限のルールで試しに運用し、数カ月ごとにフィードバックを反映しながら改善していくことこそが、現実的で持続可能なアプローチです。
では、どうすればルールを現場に根づかせ、継続的に改善していけるのでしょうか?
“完璧なルール”を目指さず、まずは走りながら整える
AIの進化は想像以上に速く、今日の正解が明日には変わっていることも、めずらしくありません。そのため、「ガイドラインは一度つくったら終わり」ではなく、むしろ“暫定版”として始め、定期的に見直していく方が現実的です。
例えば:
- ガイドラインを四半期に一度アップデート
- 現場からのフィードバックを反映
- 最新の事例やトレンドを踏まえた更新
というように、小さく始めて柔軟に対応できる体制を作ることが、長期的な運用につながります。
“使ってみた”を歓迎し、失敗から学ぶ文化を
現場でのAI活用が進む企業の共通点は、「使ってみること」自体に対して寛容であることです。もちろん、トラブルが起きたときの対応体制は必要ですが、過度に制限すると現場の創造性や効率化の芽を摘んでしまいます。
私も取材対応の準備で、AIに下調べをさせたところ、引用情報の出典が誤っていてヒヤリとした経験があります。でもその後、一次情報に立ち戻る体制を社内で再構築し、結果として情報管理のレベルが上がった、ということに繋がりました。
「AIでの失敗=悪」ではなく、「改善の機会」として捉える視点が、組織に健全な試行錯誤を促します。
「ルールは現場のためにある」という合意をつくる
最後に大事なのは、ルールやガイドラインが「現場を縛るため」ではなく、「現場を守るため」にあるという共通認識です。
こうした共通認識を育てるために、次のような取り組みが有効です。
- 作成段階から現場メンバーの声を反映させる
- 成果事例を社内で共有し、「うまく使った人」が評価される空気をつくる
- 情報セキュリティ部門や広報部門との連携を強化する
ルールは、現場に根づいて初めて力を発揮します。そしてその定着を促すのは、仕組みだけでなく、「これは自分たちの業務を前に進めるための道具だ」という納得感なのです。
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