店舗ごとに価格も量も変える 40年続く八丈島料理の居酒屋、都内展開の戦略(1/2 ページ)
コロナ禍が明け、現在の外食産業の課題は何か。郷土料理を専門とする強みについて、八丈島料理の居酒屋を展開している源八船頭の牧田雄成取締役に聞いた。
近年、地域独自の食文化やストーリーを持つ「郷土料理」への関心が全国的に高まっている。食を通じて地域の魅力や歴史に触れたい消費者のニーズは、観光地における地産地消だけでなく、都市部の飲食店にも波及している 。その潮流のなか、八丈島の島寿司や明日葉(あしたば)、島酒を味わえる店として多店舗展開してきたのが「八丈島郷土料理 源八船頭」だ。
八丈島出身の創業者によって1980年に東京都江戸川区小岩にオープンした源八船頭は、2019年に現経営陣による事業継承を経て、東京都内を中心に6店舗を展開。2025年7月には6店舗目となる目黒店をオープンした。どの店舗も八丈島の郷土料理を味わえることをコンセプトにし、店舗顧客層ごとに量や価格を調整しているのが特徴だ。
コロナ禍が明け、現在の外食産業の課題は何か。郷土料理を専門とする強みについて、源八船頭の牧田雄成取締役に聞いた。
牧田雄成 源八船頭取締役兼KTM代表取締役。2013年から不動産やイベント業にて独立。その後、2016年に飲食業に携わる。2年間の店長を経て株式会社KTM設立。2019年から源八船頭の運営に携わる。八丈島の魅力を都内へ。そして世界へ伝えていく為に活動している
M&Aによる店舗承継に選ばれた理由 店舗ごとに価格や量を変える理由は?
――牧田取締役はなぜ八丈島料理のお店を始めたのでしょうか。
当店の創業者である先代は、沖縄出身の金城昌光です。金城は、八丈島に移住した経歴があります。9人きょうだいの2番目だった金城は、弟や妹たちの7人のきょうだいを育てるため、最初は魚屋を八丈島で始めました。それが「源八船頭」の前身でもありました。
魚屋からスタートした店は品ぞろえが増え、スーパーのようになりました。弟や妹たちもしっかり大人になり巣立ったところで、今度は自分たち自身の挑戦として、金城夫妻が40歳のときに東京・江戸川区の小岩へと出てきたのが、源八船頭の創業になります。そのお店を2019年に、私と当社代表取締役である黒田俵悟が事業継承したのがいきさつです。
――事業継承しようと思ったのはなぜなのでしょうか。
私と黒田とは、「何か良い飲食店をやりたい」と話していました。この時、たまたま黒田のもとに「飲食店を売りたいという顧客がいる」と連絡がありました。それがM&Aによる店舗の引き継ぎでした。「ぜひお店を見てみませんか」と言われたので、その日に小岩まで食べに行って、お店の雰囲気や料理を実際に体験しました。とても良いお店だと感じ、「もし引き継がせてもらえるなら、ぜひ挑戦したい」と思って立候補したのです。
――実際にどんな点が「良い」と思いましたか。
小岩本店に来ていただいたら分かると思いますが、建物からも小岩の歴史や空気を感じますし、平日にもかかわらず店内は満席で、年齢層も幅広く、高齢者から子どもまで多くの来店客がいました。その様子を目にし、このお店は地域にしっかりと溶け込み、地元で愛されている場所だと強く感じました。こういった良いお店は残していくべきだと考え、思い切って手を挙げたところ、他の約50社もの候補の中から選ばれました。
――選ばれた理由は何だったと思いますか。
私たちは、もともといるスタッフをとても大切にしたいと強く思っていたので、その気持ちを金城会長にしっかり伝え続けました。新しい会社が引き継ぐと、スタッフが総入れ替えになるケースも多いのですが、私は今いるスタッフと一緒に新しい店作りをしたいと繰り返し伝えていました。その姿勢が選ばれた一番の理由だと思います。
――事業承継がうまくいった理由について教えてください。
うまくいった理由は、しっかりしたコンセプトがあったことです。「八丈島」という専門性をテーマにし、唯一無二の存在価値を打ち出せていたのが大きかったと思います。八丈島の名前はもちろん、郷土料理の島寿司や明日葉といった食文化もそのまま継承しています。単なるブランドや技術だけでなく「八丈島」という土地や歴史性に強く興味を持っていました。その唯一無二の強みが、小岩という街で高い評価を受けていたと感じています。
建築業から飲食業に転身したキャリア
――牧田取締役のキャリアについて教えてください。
私が飲食業を始めたのは30歳ぐらいのときで、今は39歳になります。それまでのキャリアは、最初は建築業界で、27歳までは三井系の一部上場企業で働いていました。当時から「将来は独立しよう」と決めていて、27歳のときに3人の仲間とともに独立しました。
それから東京に出てきて、不動産業やイベント業などのビジネスを展開したのですが、メンバー間で方向性の違いもあり、その道はやめました。その後、飲食業に落ち着き、現在に至ります。
――飲食業の魅力はどんなところに感じましたか。
飲食業の一番の魅力は、顧客から直接「ありがとう」をいただけることだと思います。本当に遠回りせず、顧客の顔や名前、その方が好きな料理やドリンクを自然と覚えていくことで、スタッフとお客さまという関係を越えて、非常に距離が近くなります。そうやって直接感謝や「おいしい」の言葉が届き、それが売り上げやお店の成長、目に見える結果につながるのがうれしかったですね。
――飲食業を始めてからの歩みを教えてください。
飲食業を始めた当初は、飲食店で働きながら、不動産業や他の仕事も掛け持ちしていました。飲食業の仕事を収入の軸にしつつ、さまざまなことに挑戦していました。その後、たまたま自分が店長に任命されて、そこからさらに任せられる範囲が広がり、自分で会社を立ち上げることになりました。それからはスタッフもどんどん増えていき、さまざまな人と一緒にお店づくりを進めていくようになったのです。
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