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社員に「何者になりたいか」問い続ける──自律型人材を育てるためダイドーが重視する「5つの資質」【後編】徹底リサーチ! ダイドーグループHDの人的資本経営

自律型人材の育成は、号令をかけるだけでは務まらない。ダイドーグループホールディングスでは、5つの資質を定め、それに基づいて自律型人材を目指すための働きかけをしてきたという。

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新連載:徹底リサーチ! あの会社の人的資本経営

近年、注目される機会が増えた「人的資本経営」というキーワード。しかし、まだまだ実践フェーズに到達している企業は多くない。そんな中、先進的な取り組みを実施している企業へのインタビューを通して、人的資本経営の本質に迫る。インタビュアーは人事業務や法制度改正を研究するWorks Human Intelligence総研リサーチの奈良和正氏。

 「自律型人材」──この数年で、大企業を中心によく聞くようになった言葉だ。長い間、従業員に対して会社に従順であることを求めてきた日本企業が、その在り方を転換し、キャリア自律を求めるようになっている。

 しかし、自律型人材の育成は、号令をかけるだけでは務まらない。ダイドーグループホールディングスでは、5つの資質を定め、それに基づいて自律型人材を目指すための働きかけをしてきたという。社員を自律型人材に仕立てるために、どのような工夫をしてきたのか? 代表取締役社長の高松富也氏(※「高」は「はしごだか」)に、人事業務や法制度改正を研究するWorks Human Intelligence総研リサーチの奈良和正氏がインタビューする。

自律型人材を、どう育てるのか?

奈良: DXやDEI推進に対する取り組み、そして組織文化の進化について詳しくお話を伺ってきました(中編記事「DXを『やらされ仕事』にしない ダイドー流『自走する組織』の作り方」)。その先にある「キャリア自律」というテーマについて、より深く掘り下げたいと思います。

 「DyDoキャリア・クリエイト」というキャリア自律支援の仕組みが気になっています。

 昨今、キャリア自律は多くの企業にとって非常に重要なテーマとなっていますが、貴社、そして高松社長ご自身はこの課題にどう向き合い、どのような考え方や取り組みを進めていらっしゃるのか、ぜひお聞かせください。

高松: 私たちは社員一人一人に「自律型プロフェッショナル人財」を目指してほしいと考えています。ここでいう「自律」とは単に「自らを律する」ことだけを意味するのではなく、“自ら立つ”、つまり「自立」の意味も含む言葉です。

 この考え方の背景には、私自身が以前に読んだ『LIFE SHIFT』(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著/東洋経済新報社)という書籍の影響があります。現代は「人生100年時代」と言われており、1つの会社や職種だけでキャリアを終えるという考え方はもはや主流ではなくなっています。私自身も転職経験がありますが、自分のキャリアに主体的に向き合い、自らの人生を自分で築いていくことこそ、最終的に企業と個人双方のWin-Winにつながると強く感じています。

 こうした考えを基に、2024年には「DyDoグループがめざす人的資本経営」を正式に策定し、明確な方針と施策を打ち出しました。人的資本経営は「グループミッション2030」の実現、すなわち「既存事業の再成長」と「新規成長領域の獲得」というグループの長期戦略と密接に結びついています。

 特に、人的資本経営の核に「国内外での事業の変革・事業創造に貢献する」という目標を据えたことは、今後のグループの方向性を明確にする上で非常に重要なポイントだと考えています。

 この目標を実現するために、私たちは「スペシャリティ(専門性)の強化」と「マネジメント力の強化」の2本柱を掲げています。急激に変化する経営環境の中で事業の再成長と新たな価値創出を担うには、この二つの力が不可欠です。

 そして、その力を育むために、グループ全体で従業員の主体的なキャリア形成を支援する仕組みとして「DyDoキャリア・クリエイト」の導入を進めています。

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キャリア自律のための取り組み(画像:同社提供)

奈良: 人的資本経営の方針とも深く関わる「DyDoキャリア・クリエイト」ですが、具体的にはどのような仕組みなのか、もう少し詳しく教えていただけますか?

高松: はい。当社では「自律型プロフェッショナル人財」の育成を目標に掲げています。その実現に向けて、社員に求める5つの資質を新たに定義しました。それが、「志」を中心に、「チャレンジ精神」「成長意欲」「達成意欲」「自律心」の5つです。これらを備えた人材こそがこれからの時代に活躍できると考えています。

 これらの資質の成長と挑戦を後押しするために導入を進めているのが「DyDoキャリア・クリエイト」です。

 この仕組みは、社員一人一人が自らのキャリアに向き合い、「どのような専門性を高めたいのか」「どのような職種に挑戦したいのか」といった将来像を会社と共に描き、実現を支援するものです。

 すでにeラーニングをはじめとする研修制度の拡充を進めており、部門・職種ごとに必要なスキルを再定義しています。社員が自発的に学び、挑戦できる環境づくりに取り組んでいます。

 また、既存の社内公募制度も発展させ、異動の場面においても個人の意思を尊重する設計へと変えていこうとしています。

 さらに、心理的安全性の高い組織づくりも同時に進めています。社員が安心して能力を発揮できるよう、心身の健康にも配慮した“ワークライフシナジー”の実現を目指しています。仕事と人生が相乗効果をもって充実する、そんな環境こそ私たちの理想像です。

 これらの取り組みを通じて、社員が自らの可能性を信じて行動し、高い成果を持続的に出せる「自律型プロフェッショナル人財」へと成長していけるよう支援を続けていきます。

 最終的には社員と会社が共に成長できる関係を築き、国内外の事業において変化に柔軟に対応し、新たな価値を創出していく力を高め、グループ全体の持続的成長を実現していきたいと考えています。

志が導くキャリア形成──仕組みを越える人づくりの本質

奈良: ご紹介いただいた、「志」を中心とした「チャレンジ精神」「成長意欲」「達成意欲」「自律心」の5つの資質の中で、特に「これは難しい」と感じるものはございますか?

 私自身は自律心が非常に重要なベースであり、多くの施策もそこから成り立っていると感じています。ただ、その自律心を育むこと自体が難しい場合もあると思うのですが、どのようにお考えでしょうか?

高松: 確かに自律心は難しい部分もありますが、私たちは5つの資質を「志」を中心に据えています。志の周りに成長意欲、チャレンジ精神、達成意欲、自律心があるイメージです。

 社内でも「まず志ありき」という言葉を繰り返し伝えています。これは必ずしも会社のためだけではなく、人生や職業人生の中で「何者になりたいのか」「何を成し遂げたいのか」という自分自身の核となる考えを持つことが大切だという意味です。大きな施策がなくても、しっかりとした志があれば、他の4つの資質も自然と伴ってくると考えています。

 だからこそ社員には、自分の志を大切にするよう、ことあるごとに伝えています。自分の志を見つめ直すことが、「自分はこんなことをキャリアの中でやりたい」と気付くきっかけにもなるはずです。

 また、当社としても、グループミッション「世界中の人々の楽しく健やかな暮らしに貢献したい」という志を明確に示し、それに共感してくれる人たちが集まる会社でありたいと願っています。

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ダイドーグループホールディングス代表取締役社長の高松富也氏(※「高」は「はしごだか」)(写真:葛西龍)

奈良: 「DyDoキャリア・クリエイト」の施策は、最初は高松様が中心となって進められていたと思いますが、現在は人事部門の方々が主に運営されているのでしょうか? 実際にはどなたがリーダーとしてこのプロジェクトを推進しているのか教えてください。

高松: そうですね。もともとは私が中心となって動かしていましたが、現在はグループの経営戦略部が主導してプロジェクトを推進しています。ここ数年で少しずつ具体的な形が見えてきたと感じています。

 この課題意識自体は数年前からありましたが、人事総務部だけではなかなか具体化できませんでした。しかし、『グループミッション2030』を策定し、人材育成や教育強化を重要課題(マテリアリティー)として位置付けたことで、経営戦略部がプロジェクトマネジメントから参画し、全社的に進める体制が整いました。

 結果として、人事総務部が中心となり外部コンサルタントの協力も得ながら、具体的な制度設計や運用を進めることができました。経営課題として取り組み始めてから、活動が具体的に動き始めたのが現状です。

奈良: 継続的に取り組みを推進し続ける姿勢が非常に印象的でした。失敗を恐れず、粘り強く活動を続けられるリーダーシップこそが、チャレンジ精神の根幹を支えているのだと強く感じました。

 また今回の施策が単なる人事総務部の努力だけでなく、経営層の戦略的コミットメントと現場の実践的協力が三位一体となり、全社的に推進されている点が、具体的な制度設計や運用の実現につながっていることも非常に重要なポイントだとあらためて認識いたしました。

高松: そうですね。本来の理想は、私がいなくなっても自然と取り組みが継続するしくみを作ることだと思っています。

 現状はまだそこに至っておらず、私自身の達成意欲に支えられている面もありますが、組織が自律的に活動し続けられる状態を究極の目標にしています。

奈良: なるほど。これまで多くの成果を上げてこられた一方で、まだ道半ばということですね。これからさらに強化が必要であると。

高松: はい、その通りです。今後も継続して取り組んでいく必要があると考えています。

奈良: 「DyDoキャリア・クリエイト」をはじめとする貴社の取り組みは、経営層の強いコミットメントのもと、人事部門だけでなく現場も巻き込み、全社一丸となって推進されていることが非常によく伝わってきました。

 特に、挑戦を恐れず継続的に改善を重ねていくリーダーシップの重要性や、社員一人一人が自律的にキャリアを築ける環境づくりへの真摯な姿勢に感銘を受けました。貴重なお話をありがとうございました。

著者プロフィール

奈良和正 株式会社Works Human Intelligence WHI総研

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2016年にWorks Human Intelligenceの前身であるワークスアプリケーションズ入社後、首都圏を中心に業種業界を問わず100以上の大手企業の人事システム提案を行う。

株式会社Works Human Intelligence

大手法人向け統合人事システム「COMPANY」の開発・販売・サポートの他、HR 関連サービスの提供を行う。COMPANYは、人事管理、給与計算、勤怠管理、タレントマネジメント等人事にまつわる業務領域を広くカバー。約1,200法人グループへの導入実績を持つ。

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