Facebook Japan代表に聞く「インスタのジレンマ」 若年の支持獲得か? 規制への対応か?(2/2 ページ)
多くのコンテンツやWebサービスは、ローンチから経た年月の分、ユーザーも年を取り、若者が寄り付かなくなってしまう。しかしこの10年あまり、インスタが若者にとって「定番SNS」であり続けているのはなぜなのか。Facebook Japanの味澤将宏代表に聞いた。
メタバースとAI投資の方向性は「ずれていない」
米Metaのマーク・ザッカーバーグCEOは、かつてメタバースに全社的に注力するために社名を「Meta」に変更するほどの強い姿勢を示していた。
しかし味澤代表によると、現在は「MetaはAIに非常に真剣に取り組んでいます」という。
「AGI(汎用人工知能)をスーパーインテリジェンスと呼んでいますが、これに全ベットしている(全力を賭けている)状態です。世界中から優秀な開発者を集めてチームを作り、その開発プロジェクトを立ち上げています」
その後、AIが社会に急速に浸透したことで、Metaは開発の軸足をメタバースからAIへと移したということだ。いまや巨大企業となったMeta。企業の方向性を急旋回できる柔軟性を、まだ持ち合わせているようだ。
ただし、同社の考えは単純なシフトではないようだ。味澤代表は以下のように説明する。
「メタバースとAIは、社内的にはそれほど大きくずれてはいません。その理由としては、メタバースに関してさまざまな取り組みをする中で、例えば、AIを搭載したスマートグラスが予想以上に早く伸びてきていることが挙げられます。AIとスマートグラスは、非常に相性が良いと感じています」
スマートグラスにせよ、リールにせよ、開発の速さの理由はどこにあるのか。
「プロダクトエンジニアリングのリソースがあることに加え、全社的にエクスペリメント(実験、試行)の文化があることです。より良くするために何かを変え、その『うまくいく・いかない』を定量的に分析しながら、開発を進めていくからです」と、まさにアジャイル開発の進め方を強調した。AI活用により、この2年間で開発スピードがさらに加速しているそうだ。
インスタはリールやDMなど多くの機能を増やしてきた。一方で、機能数が多すぎると使いにくくなるという課題もある。
「何を削ぎ落とすかは、製品開発をする上で非常に重要ですが、つらい作業です。メディア向けラウンドテーブルでは話していませんが、実は停止した機能はたくさんあります」。その機能停止の判断基準の一つは、ユーザーの滞在時間、ひいてはエンゲージメントだという。「私たちは(数字を)かなりシビアに見ています」と語った。
警察と連携 安心安全を強化
愛知県豊明市の市議会では、スマートフォンの利用を1日2時間以内とする全国初の条例が可決された。プラットフォーマーとして、こうした動きをどのように見ているのか。味澤代表は若年層の利用者に対して「繰り返しになりますが、安心安全に使ってもらうことが重要」という点を強調した。
インスタの利用により創造性が高まるなど良い面もあるため、単純に時間で区切るのが適切かどうかは、個人個人のニーズや置かれている状況によって異なるとの見解を示した。同社としては「安心安全に使える機能を実装しつつ、親御さんも含めて一緒に管理をしてもらう方が、利用者のためになる」と考えているという
そのためインスタは、保護者による管理機能であるペアレンタルコントロールを2022年に始めた。2025年1月には、13〜17歳を対象に、保護者の承認なしには変更できない保護機能を組み込んだティーンアカウントを導入。またインスタやFacebook内では、SNSを利用するリスクを啓蒙(けいもう)する広告を表示する取り組みも実施している。
味澤代表は、SNSを悪用した事例を減らすには「Metaだけでは限界があります」と指摘する。プラットフォーマー同士や、警察、金融機関との連携を始めているといい、「今後もしっかり取り組まないと、(悪用事例は)なくならないだろう」と述べ、社会全体での連携強化の必要性を示した。
若年層の支持獲得と規制への対応 インスタのジレンマ
インスタは幅広い世代に利用されている。そのビジネスの生命線は、インスタの利用がほぼ日常生活の一部となっている若年層の存在だ。次の15年後もティーン層に使ってもらえるかどうかに、インスタの将来がかかっていると言える。
しかし、この若年層の維持には大きな二律背反が伴う。
ティーンアカウントの導入など、安心安全に配慮した機能は、若年層を保護者とひもづけて見守りへとつなげている。一方で、このような規制や保護機能の強化は、自由な利用を求める若者にとってサービスの魅力を低下させる可能性もあり、長期的には収益を圧迫する要因ともなりうるのだ。
安心安全な環境の提供と、サービスの魅力を両立させるというジレンマ。日本法人を統括する味澤代表が、若者からの支持を継続してもらうためにどうバランスを取っていくのか、その手腕が注目される。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
「実際、スレッズってどう思ってます?」 フェイスブック ジャパン代表に聞いた
Facebook Japanの味澤将宏代表に、スレッズを始めとしたSNSの未来や日本市場での戦い方を聞いた。
AI競争は「Googleの圧勝」で終わるのか? Gemini 2.5 Proの衝撃
米国のテック系人気ユーチューバーの何人かが、こぞって「AI開発競争はGoogleが勝利した」という見出しの動画をアップしている。これでGoogleの勝利が決定したのかどうか分からないが、少なくともOpenAIの首位独走の時代は終わったのかもしれない。
NTT「IOWN構想」に世界が動き出した 成否を握る“ブレークスルー技術”とは?
NTTが提唱する「IOWN構想」では2030年をメドに伝送容量を現在の125倍、遅延を200分の1、電力消費を100分の1に抑える計画だ。飛躍期を迎えたIOWNの歩みと、米南部ダラスで開かれた推進組織のメンバー会議の現地取材から今後の課題を展望する。
OpenAIアルトマンCEOが考える AI時代の「覇権を取る3つの要素」
AI時代の覇権をめぐる戦い方が目まぐるしく変化している。OpenAIのCEOのSam Altman(サム・アルトマン)氏が最新のインタビューで、AI時代に覇権を取るのに必要なのは最先端のモデルではなく、数十億人のユーザーを抱えるサービスだという考えを明らかにした。
OpenAIは4年後、何で稼いでいるのか? ChatGPT以外の収益源は?
米OpenAIは2029年にはChatGPT以外の売り上げがChatGPTのそれを超え、10年後にはChatGPTの売り上げの10倍になると予測しているという。ChatGPT以外の収益源とは、どのような製品になるのか?
日立、フィジカルAIに注力 「Lumada3.0」で社会インフラ業務を変革
日立製作所が「世界トップのフィジカルAIの使い手」を目指す――。 執行役常務 AI&ソフトウェアサービスビジネスユニットCEOの細矢良智氏は「それぞれの領域で培ってきた取り組みがドメインナレッジとなり、それをフィジカルAI、エージェンティックAIとつなげることで、これまでにない力を発揮すると考えています」と話した。
AIは「4カ月で2倍」賢くなる OpenAI「o3」は知能爆発の入り口か?
米国OpenAIのPresidentのグレッグ・ブロックマン(Greg Brockman)氏は、「o3はトップ科学者たちが、『本当に新しくて有用なアイデアを出してくる』と言っている最初のモデルだ」と語った。実際筆者も使っていて、o3が新たな知見を見つけ出したのではないかと感動したことがある。詳しく説明してみよう。
OpenAIが目指す「進化版ChatGPT」とは? 「AI時代のOS」になり得るか
米OpenAIのSam Altman(サム・アルトマン)氏は、今後のAIモデルを「オペレーティングシステム(OS、基本ソフト)のようなものにしたい」と語った。OSのようなAIモデルとはどんなものなのだろうか。同氏によると、若い世代は既にChatGPTをOSのように使っているという。
DeepSeekにどう対抗? OpenAIやAnthropicが戦略転換を迫られる3つの理由
中国製のAIモデル「DeepSeek R1」のリリース以来、コストパフォーマンスの良い中国製AIモデルが次々とリリースされている。このコスパの良いモデルの攻勢は、OpenAIやAnthropicといった米国を代表するAIモデルにどのような影響を与えるのだろうか。



