盛り上がるM&A、その活況の裏に潜む「落とし穴」:世界を読み解くニュース・サロン(2/4 ページ)
M&Aが活況を呈している。企業の後継者不足に加え、積極的な成長戦略として活用されるようになったからだ。一方で「落とし穴」もある。あやしい仲介業者にだまされたり、外国勢力に技術などを奪われたりしないように、リスクをしっかり調査する必要がある。
増加の背景に「後継者不足」と「成長戦略」
まず、M&Aの増加の背景にはいくつかの要因がある。 最大の要因は、企業の「後継者不足」問題である。特に注目されているのは中小企業で、いわゆる「2025年問題」の影響が挙げられる。
団塊世代の経営者が平均引退年齢の70歳を超える時期が2025年頃であり、日本企業全体の3分の1で後継者がいないという事態になっている。中小企業庁のデータによれば、70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は、2025年までに約245万人になるといわれており、その半分である約127万人(社)に後継者がいない。
同庁は「現状を放置すると、中小企業・小規模事業者廃業の急増により、2025年までの累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる」可能性があると指摘している。
たとえ黒字経営であっても、後継者不在により廃業せざるを得ないケースが急増している。そうなると、従業員の雇用や取引先との関係が問題になるため、経営者にとっては、M&Aによる第三者への事業承継が現実的な選択肢となる。
さらにM&Aの増加には別の理由もある。企業の中には、新たな成長を模索するうえでの積極的な経営戦略として、買収という手段を使っているところも多い。
近年、AIやサイバーセキュリティなどの分野が成長しており、新しい技術や優秀な人材を迅速に獲得するためにスタートアップを買収する動きが活発化している。また、人口減少による人手不足を補うためのM&Aや、新市場へスピーディーに参入するための買収案件も増えているという。
ゼロから事業を立ち上げるよりも効率的な「時短型」の成長戦略として、M&Aは欠かせない選択肢になりつつある。
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