盛り上がるM&A、その活況の裏に潜む「落とし穴」:世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)
M&Aが活況を呈している。企業の後継者不足に加え、積極的な成長戦略として活用されるようになったからだ。一方で「落とし穴」もある。あやしい仲介業者にだまされたり、外国勢力に技術などを奪われたりしないように、リスクをしっかり調査する必要がある。
“うまい話”に乗る前に、リスク調査が必須
企業インテリジェンスについては、以前もこの連載で取り上げたが、日本には、米CIA(中央情報局)のような対外情報機関が存在せず、スパイ防止法もないために、情報収集して分析するという意の「インテリジェンス」に対する感度や意識が低い。欧米では、企業インテリジェンスを企業活動に組み込んでリスクを回避し、運営をスムーズに行う企業が多い。
日本も、後継者不足などでますますM&Aが増えると見られる中で、企業はM&Aのメリットだけでなく、背後にあるリスクもきちんと調べていく必要があるといえるだろう。さもないと、搾取されてしまう可能性があるからだ。
日本の中小企業には、日本を支えてきた独自の技術やノウハウ、人材を持つところも少なくない。そうした技術や人材が、買収で奪われてしまう可能性もある。
中国などの外国勢力によって技術と人材を丸ごと奪うために、買収が行われたとされるケースも指摘されている。日本の中小企業が抱える問題に乗じて、海外の企業が接近してくることも懸念されている。日本でも経済安全保障の意識は高まっているが、企業を守るためのさらなる規制強化なども必要になっている。
企業が奪われれば、国家の基盤である経済が衰退し、国力の低下にまでつながっていく可能性がある。そうならないためにも、M&Aなどではきちんとした調査を実施しなければならないだろう。政府には、日本企業があやしいM&A仲介業者や外国勢力から搾取されないように、対策をぜひ進めてほしい。
筆者プロフィール:
山田敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)、『死体格差 異状死17万人の衝撃』(新潮社)、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。
Twitter: @yamadajour、公式YouTube「SPYチャンネル」
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