「アサヒとキリン」どこで差がついたのか? 数字が語る両社の選択:サイバー攻撃の影響(6/6 ページ)
アサヒとキリンは、どこで差がついたのか? 財務や事業戦略の数字から成長の分かれ目を分析。海外展開や多角化、国内ブランド戦略の違いから、今後の競争の行方を読み解く。
サイバー攻撃で、両社の立ち位置は変わるのか
今回のアサヒへのサイバー攻撃によって、キリンが再びビール市場で首位を奪還するような展開が起こるのか。結論から言えば、その可能性は低いと考えています。
すでにアサヒは国際展開を進めるグローバル企業としての地位を確立しており、今回の攻撃による影響は限定的でしょう。世界市場でのプレゼンスやブランド力は揺らいでおらず、長期的な競争力が大きく損なわれるとは考えにくいと感じます。
一方、キリンは近年、医薬品やヘルスサイエンスといった非ビール領域への投資を強化し、事業ポートフォリオの再構築を進めています。すでにビール専業企業からの脱却を掲げており、健康をキーワードとする成長戦略にシフトしている状況です。
従って、今回のような一時的な混乱に乗じて、キリンがビール市場でのシェアを大きく取り戻すといった展開は考えにくいでしょう。むしろ、影響を受けなかったサントリーやサッポロが恩恵を受ける可能性が高いと考えます。
今後アサヒとキリンの2社で注目すべきは、それぞれの企業が描く成長戦略です。
アサヒは世界的な需要構造の変化や、各地域の法規制・味の好みの違いに対応しながら、グローバルブランドとしての価値をいかに維持・拡大し、企業としての存在感を強められるかが焦点となります。
キリンはファンケルなどの買収により、健康志向の製品を強化していますが、最大の課題は「キリン=ビールの会社」という強固なイメージがあることです。いかにして新たな企業像を浸透させられるかが、今後の成否を左右するポイントになるでしょう。
今回、アサヒへのサイバー攻撃をきっかけに、改めて両社の過去と現在の戦略を比較してみると、すでに全く異なる方向へ歩み始めていることが見えてきました。
両社の進む先で、どのような成果を出していくのか。今後も注視していきたいと思います。
カタリスト投資顧問株式会社 取締役共同社長/ポートフォリオ・マネージャー
草刈 貴弘
大学卒業後、舞台役者などを経て2007年にSBIリアルマーケティングに入社。2008年にさわかみ投信に転じ、顧客対応部門、バックオフィスの責任者、アナリスト、ファンドマネージャーを経験し、2013年に最高投資責任者、運用調査部長、2015年取締役最高投資責任者に就任。2023年3月に現職のカタリスト投資顧問に入社し、同年6月に取締役共同社長に就任。
投資先企業の企業価値向上に直接寄与することで、日本企業の成長と資本市場の活性化と、個人投資家の財産づくりを両立することを志向する。ファンダメンタル分析を基にしたバリュー投資を軸に、持続的成長の転換点を探るのをモットーとする。現在、朝日インテック社外取締役。東洋大学理工学部卒。
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