「アサヒとキリン」どこで差がついたのか? 数字が語る両社の選択:サイバー攻撃の影響(5/6 ページ)
アサヒとキリンは、どこで差がついたのか? 財務や事業戦略の数字から成長の分かれ目を分析。海外展開や多角化、国内ブランド戦略の違いから、今後の競争の行方を読み解く。
国内ブランド戦略も大きく異なる
国内ビール事業におけるブランド戦略にも、アサヒとキリンの明確な違いが見られます。現在、国内のビール市場ではブランドが乱立しており、いかにプレミアム感を打ち出せるかが勝負の分かれ目です。
キリンのメインブランドである「一番搾り」は、麦のうまみや丁寧な製法を訴求し、「日常のちょっと贅沢(ぜいたく)なビール」というポジショニングで展開してきました。認知度も高く、品質への評価も一定以上得られています。
しかし、プレミアムモルツやヱビスのように贅沢品としての存在感は弱く、「高級感が中途半端」といった声も少なくありません。完全な定番にもなりきれず、プレミアムにも届かないという中途半端な立ち位置になってしまった印象があります。
一方、スーパードライは、業績不振に陥っていたアサヒが起死回生の一手として、それまでの「ビール=苦み」という常識を覆し、「辛口・キレ・高鮮度」といった特徴を武器に、明確なポジションを確立。圧倒的なシェアを背景に、定番でありながらも、プレミアム感のあるビールというポジションを長く守り続けています。
このような差が継続している背景には、キリンの慎重すぎる姿勢がありました。アサヒが市場を揺るがすほどの大胆なプロモーションを行ったのに対し、キリンは大きなリスクを避け、発泡酒や新ジャンル商品で細かな差別化を図る戦略にとどまったのです。
キリンは新ジャンルや「淡麗グリーンラベル」など、革新性のある商品を数多く開発してきました。しかし、2位とはいえ、国内である程度のシェアを維持し、利益は出ていることから、起死回生の勝負をかけるような強烈なプロモーションは展開しませんでした。そのため、どれだけ新しい商品を出しても、競合に追随されてしまい、埋没する状況を繰り返しています。
こうした状況が、キリンを非ビール領域であるヘルスサイエンス事業や医薬系事業などへの多角化に向かわせる一因にもなりました。
つまり、ビール事業での決定的勝利が見込めない中で、成長の軸足を他領域に移さざるを得なくなったのです。
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