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「アサヒとキリン」どこで差がついたのか? 数字が語る両社の選択サイバー攻撃の影響(4/6 ページ)

アサヒとキリンは、どこで差がついたのか? 財務や事業戦略の数字から成長の分かれ目を分析。海外展開や多角化、国内ブランド戦略の違いから、今後の競争の行方を読み解く。

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M&Aの成否を分けた、“仕組み”の差

 こうしたアサヒの成功とキリンのつまずきの差は、決して運や単なる偶然によるものではありません。両社には、M&Aを支える組織的な仕組みに明確な違いがありました。

 アサヒの強みは、M&Aを専門とする体制を組織的に整備してきた点にあります。買収前には、現地に精通した専門家の下で徹底的なデューデリジェンス(企業調査)を行うことで、「高値づかみ」のリスクを抑えてきました。

 また、買収後には、対象企業が属する地域に統括会社を設け、PMI(買収後の組織統合)を推進。現地の人材やブランドを尊重し、日本式の経営手法を一方的に押し付けるのではなく、現地に合った形で事業運営を行っています。

 こうした現地化の徹底は難易度が高く、多くの企業がつまずくポイントですが、「押してダメなら引いてみる」「斜めから叩いてみる」といった柔軟なアプローチをしたことが、M&Aで成功を収めた最大の要因といえるでしょう。

 一方、キリンはこうした体制面で課題を抱えていました。最も大きな要因は、経営層による焦りとトップダウンでの拙速な意思決定です。国内市場でアサヒに遅れを取っていたことから、キリンは短期間での成長を目指し、M&Aを急ぎすぎた印象が強いです。実際、ブラジルやミャンマーといった新興市場への進出は、一見すると合理的に見えるものの、買収前のデューデリジェンスやPMIの準備は不十分でした。


キリンが買収したミャンマー・ブルワリー(出典:キリン)

 ミャンマーでは、軍事政権との合弁企業だと疑われ、専門家からもリスクを指摘されていました。クーデターのような不可抗力的な出来事は想定外ですが、その前段階でのリスク管理の甘さが、結果的に巨額の減損損失と撤退へとつながったといえます。

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