「70歳まで働く」時代が来る!? 先進エイジレス企業が示す、新しいシニア雇用のかたち:労働市場の今とミライ(2/3 ページ)
2025年4月、改正高年齢者雇用安定法の施行によって、すべての企業で希望者全員の65歳までの雇用が完全に義務化された。70歳までの雇用義務化を目指す法改正の検討が、2026年から始まることも示唆されている。働き続けるシニアについて、当事者や企業の視点から考える。
65歳以降も働く人が増えているワケ
政府の高齢者雇用政策もさることながら、そもそもなぜ65歳以降も働く人が増えているのか。その背景には経済的事情がある。
30年前であれば「定年を迎えたら悠々自適の生活」という人も珍しくなかったが、収入を支える日本経済や企業の状況は一変した。業績の低迷や年功賃金の是正によって、2000年以降、中高年社員の給与水準は抑制されてきた。同時に老後の生活資金である退職金も減少し続けている。
加えて、公的年金財政の厳しい状況を反映し、「マクロ経済スライド」と呼ぶ減額措置が実施され、年金の受給開始年齢も65歳に引き上げられた。定年後も働き続けなければ、家計が立ち行かなくなっている。さらに、寿命が延びる中で老後の生活や健康不安も増している。
人材総合サービスを手掛けるスタッフサービス・ホールディングスが実施した調査によると、「就職・転職先に求めるもの」として、60代男性で最も多かったのは「生活費をまかなえる収入」(61.6%)。60代女性も54.0%だった。
「何歳まで働きたいか」の質問では、60代男性は「65〜69歳」(28.4%)、「70〜74歳」(28.0%)、「体力の続く限り、何歳まででも働きたい」(12.6%)の順だった。60代女性も同じ順位であり、「60〜64歳」と回答したのは男女ともに10%程度で最も低かった。老後の生活を見据えて、「働かざるを得ない」と認識しているシニア世代が多いことが分かる。
前述したように、70歳までの雇用義務化が視野に入る中で、企業側も動き出している。厚生労働省が2024年12月に発表した「高年齢者雇用状況等告書」によると、70歳までの就業確保措置の実施済企業の割合は31.9%、未実施企業は68.1%となっている。企業規模別で見ると1001人の実施済企業が27.8%と、大企業でも3割近い企業が体制を整備している。ただし、実施済企業でも65〜70歳の雇用は努力義務なので希望者全員ではなく、選別基準を設けているのが一般的だ。
しかし、70歳まで雇用するとなると、企業にとって負担や課題も多い。70歳までとなると定年から10年もある。従来は60歳以降の給与は60歳時点の5〜6割に設定し、仕事も現役世代の補助的業務を担う、非正規の契約社員扱いとなる定年後再雇用制度が多かった。その結果、モチベーションダウンなどの弊害も発生していた。それでも65歳で退職すると思えば許容範囲内ではあった。
加えて企業を取り巻く環境も変化している。若年労働力の減少に伴い、中高年社員の再活性化による戦力化も重要な課題として浮上している。近年では60歳以降の処遇の改善など、長く働いてもらう取り組みを強化する企業も増えている。その一つが65歳までの定年延長だ。定年が延びるということは、いったん退職して給与も引き下げられる再雇用と違い、原則として現役世代と同じ処遇になる。
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