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「70歳まで働く」時代が来る!? 先進エイジレス企業が示す、新しいシニア雇用のかたち労働市場の今とミライ(3/3 ページ)

2025年4月、改正高年齢者雇用安定法の施行によって、すべての企業で希望者全員の65歳までの雇用が完全に義務化された。70歳までの雇用義務化を目指す法改正の検討が、2026年から始まることも示唆されている。働き続けるシニアについて、当事者や企業の視点から考える。

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エイジレス企業が増加する可能性も!?

 注目を集めているのがメガバンクだ。三菱UFJ銀行は2027年度から、約2万5000人の行員の定年を60歳から65歳に引き上げると発表。同時に55歳を機に給与を引き下げる制度を廃止し、55歳以降でも昇給しやすくする。三井住友銀行や三井住友信託銀行も定年を65歳に引き上げているほか、りそな銀行も定年を最長65歳まで選べる選択定年制を導入している。

 銀行など金融業界では、50代前半〜半ばの役職定年を機に会社を離れ、関連会社か取引先に出向するのが一般的だった。出向を減らすとともに、50代以降も活躍を促す狙いだ。

 こうした動きは大手企業でも増えている。例えば、自動車メーカーのホンダは2017年に65歳選択定年制を導入し、早くから高齢社員の活躍推進に取り組んでいる。2025年6月から一部社員を対象に定年制度を廃止し、65歳以降も働けるようにした。さらに「脱年功」「脱一律」を掲げ、人事制度を刷新。役職者については職務・職責を重視した制度に変革した。

 ホンダの選択定年制は、全員が60歳になる前に定年年齢を本人の希望で選択できる。個人の価値観やライフスタイルが異なることを踏まえ、60歳以降も毎年1回、定年時期を自分で選べるようにした。同社の人事担当者は「経営陣の間ではもともと『定年を一定の年齢で区切るのはいかがなものか』という議論もあった。基本的には本人の働く意欲や実力、組織への貢献度合いによって決まるべきであり、年齢は関係ないという考え方がベースにある」と語る。

 65歳定年制の導入によって、年齢に関係なく実力主義の評価で処遇を決定し、就業者のモチベーションを高めて貴重な戦力として活躍してもらう。70歳までの雇用義務化を視野に入れているかは分からないが、仮に義務化されても65〜70歳は、従来の60〜65歳の再雇用制度のノウハウを応用すれば対応可能だ。

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提供:ゲッティイメージズ

 すでに70歳までの雇用義務化を先取りした企業もある。機械工具専門商社のトラスコ中山は2015年に定年を65歳に延長し、70歳までは再雇用制度、75歳までパート社員として働ける制度を導入。また、2025年4月から定年年齢を68歳、再雇用制度を72歳、パート社員の雇用上限を78歳に引き上げた。

 78歳まで働けるということは事実上の「エイジレス」である。トラスコ中山の人事担当者は「人手不足や採用難という理由での雇用延長ではない。『働きたければいつまでも働く場所を用意します』という発想が前提にある。もちろん、健康上の理由などで働けなくなる場合もある。その場合は、本人が自ら引退する時期を決めることになる」と語る。つまり、ライフスタイルに応じて退社の時期も自ら選択できるという高齢従業員ニーズに沿った制度といえる。

 法改正の動きだけでなく、企業の戦略と社員の「働き続けたい」という意欲が、日本の高年齢者雇用の新しい形を作ろうとしている。日本企業は、トラスコ中山のような“エイジレス化”を進める時代に突入しつつあるといえそうだ。

著者プロフィール

溝上憲文(みぞうえ のりふみ)

ジャーナリスト。1958年生まれ。明治大学政治経済学部卒業。月刊誌、週刊誌記者などを経て独立。新聞、雑誌などで経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。『非情の常時リストラ』で日本労働ペンクラブ賞受賞。


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