市場わずか10%の「すっぱい梅干し」で勝負 創業2年で黒字化した梅農家が、AIで挑む農業改革(4/4 ページ)
流通する梅干しの9割は甘い調味梅干し。残る10%の「すっぱい梅干し」に、和歌山の梅農家発ブランドが挑む。300店舗以上に拡大した同社が次に見据えるのは、AI選別機の自社開発と産地の未来だ。
「梅特化の機械開発」に誰も投資しない だから自分たちで作る
栽培のデータ化と並行して、山本氏は世界各地の農業を視察してきた。南アフリカ、イタリア、ラオス。そこで気付いたのは、海外には作物ごとに農家が集まった生産組合があり、販売利益を技術開発に投資する仕組みがあるということだ。
一方、日本では特定の作物に特化した投資を担うプレイヤーがいない。機械メーカーも汎用性の高い機械の開発が中心で、梅の選別のようなニッチな課題には手が回らない。
梅農家は収穫した梅を塩漬けし、干した後、傷の程度とサイズでそれぞれ6階級、合計36規格に合わせて一粒一粒を手作業で選別する。うめひかりの規模では6人がかりで5カ月、年間約800万円のコストに相当する。不可欠な作業だが、これによって大きな付加価値が生まれるわけではない。
「規格と照らし合わせて分けるという作業自体は、何も価値を生んでいません。そのため、選別作業をしてくれるスタッフの給料を大きく上げることも難しい」と山本氏は指摘する。
機械メーカーに選別機の製造について問い合わせたが、市場規模が小さく採算が合わないと断られた。ならば、自分たちで作るしかない。
山本氏は、AIを使った選別機の自社開発に着手した。1万粒の梅の傷を撮影してデータを蓄積し、画像認識の技術を確立。開発費は約2000万円で、6月頃の稼働を目指す。選別がなくなれば5カ月分の時間を栽培に充てられ、生産性の向上が農家の収入に直結する。
農園長が切磋琢磨しあう「大農家計画」
AI選別機や収穫機械の開発は、あくまで手段。山本氏が見据えるのは、テクノロジーで農業の生産性を高め、産地そのものを持続させていくことにある。
その具体策が、地域の梅農家をうめひかりの社員として迎え入れる取り組みだ。取材時点では、農業歴15年のベテラン農家と3年間の期限付きで共同運営の実験に取り組んでいる。双方の畑を一体で管理し、うめひかりの社員もその農家の畑に入り、農家もうめひかりの畑を耕す。
こうした取り組みの背景には、個人農家が単独で加工・販売まで手掛ける六次産業化の難しさがある。設備投資をしても大手に価格で負け、物が売れないケースが全国的に後を絶たない。個々の農家がばらばらに挑むのではなく、力を合わせて一つのブランドとして戦う方が現実的だと山本氏は考えている。
ただし、単に規模を大きくしたいわけではない。「作業員になってしまうと農業は途端につまらなくなる」と山本氏は言う。目指すのは、各農園に農園長を置き、園ごとの成績を毎年競い合う仕組みだ。成果が出れば、その分収入が増える。独立はリスクが大きいが、農園長としてならリスクを小さくして挑戦できる。「やりたい人は意外といます」と山本氏は手応えを感じている。
すっぱい梅干しというニッチ市場を切り開いた挑戦は、いまテクノロジーによって産地の未来を作る取り組みへと広がりつつある。
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