市場わずか10%の「すっぱい梅干し」で勝負 創業2年で黒字化した梅農家が、AIで挑む農業改革(3/4 ページ)
流通する梅干しの9割は甘い調味梅干し。残る10%の「すっぱい梅干し」に、和歌山の梅農家発ブランドが挑む。300店舗以上に拡大した同社が次に見据えるのは、AI選別機の自社開発と産地の未来だ。
小売店との密な関係から生まれるヒット商品
うめひかりの売上比率はオンライン販売が7割、小売が3割だという。数字だけ見ればオンラインが主軸だが、山本氏は小売店との関係にこだわる。同社のヒット商品は、いずれも小売店の現場から生まれてきたからだ。
年間何万本も売れる人気商品「梅チューブ」は、北海道の小売店からアイデアが持ち込まれたものだ。梅干し好きのお客と日々接する店主が「こういう形なら絶対求められる」と自信を持って提案してくれた。同じく人気の「梅酢」も、取引先であるワインショップの店主がタグのデザインまで手掛けてくれたという。
いずれも、うめひかりの社員だけでは生まれなかった商品だ。山本氏は「私たちは梅干しには詳しいが、実際に来てくださっているお客さまの声を一番聞けるのは小売店さんです。密にコミュニケーションを取っているからこそアイデアがいただけて、そこから何万本と売れる商品が生まれてきます」と話す。
畑ごとの損益を「見える化」する
市場を開拓し、小売店との関係から商品を磨いてきた山本氏が、次に取り組んだのは農業そのものの改革だ。梅に限らず、日本の農業の多くは経営の数値化が進んでいない。山本氏の実家も園地を5つほど保有しているが、どの畑で何キロの梅を収穫できたかすら記録していなかったという。
「1年かけて梅を育てて出荷した結果、手元にいくら残ったかで初めて自分たちの収益が分かるという感じでした。それが農業の現状です」と山本氏は語る。
畑ごとの損益が分からなければ、改善の手も打てない。同社はこの課題に対し、エンジニアを採用して自社アプリの開発に着手した。そのうちの1人は、以前、大手企業で北海道の農業センシング(センサーを利用して温度や湿度、光量などの環境データを収集し、農業に役立てる技術)に携わっていた人物で、農業の現場に戻りたいという思いを持っていた。
彼が手掛けたのが、栽培を数値化するアプリだ。木の剪定(せんてい)、草刈り、肥料まき、収穫といった作業ごとに、畑単位で時間と人件費を記録する。収穫量と突き合わせれば、どの畑が黒字でどの畑が赤字なのかが見えてくる。
データの蓄積を始めて約2年、成果は目に見える形で表れ始めた。数値を基に剪定の方法を見直したのがその一例だ。従来は木1本当たり30分で済ませていた作業を、1時間かけて丁寧に行う方法に切り替えた。一見すると効率が悪い。しかし実が付く枝を的確に残せるようになった結果、収量が倍に跳ね上がった。
こうした改善を積み重ね、面積当たりの収穫量は和歌山県平均の倍に達しているという。データがなければ「時間をかけすぎている」と却下されかねない判断も、投じた人手以上の成果が数字で裏付けられれば、継続する根拠になる。
「これまでの農業は、経験の長い人の判断が正解になりがちでした。データがあることで、みんなでディスカッションできるようになります」と山本氏は話す。
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