“働きやすさ=ウェルビーイング”という勘違い 福利厚生の充実は「入り口」に過ぎないワケ:本質的な取り組みは?(2/2 ページ)
「社員のウェルビーイング」を意識する企業が増えている。その取り組みの内容は健康管理や福利厚生の充実といったものが主だが、企業が取り組むべき本質的なウェルビーイング向上策は、それだけではないはずだ。
ウェルビーイングを高める5つの要素
九州大学大学院の池田浩准教授らの共同研究では、企業のウェルビーイング施策・制度を福利厚生や家庭との両立支援などに限定せず、より幅広いものとして以下の5つのカテゴリーに分類している。
エンゲージングな仕事の提供
社員への権限移譲、異動先を希望できる仕組みなど、仕事にやりがいをもって熱心に取り組めるようにする施策
ボイス(意見表明)
アンケートや目安箱、経営陣との対話の機会など、社員の声を組織に届ける仕組み
ポジティブな社会的・物理的環境
健康と安全を守る、努力や業績への公正な報酬、不利益に対する苦情を受け付ける仕組みなど
従業員に対する投資
社員の能力を生かし、伸ばす取り組み
組織的サポート
目標設定とフィードバックの仕組み、ワークライフバランスを実現しやすい勤務形態など
これらの制度の導入状況と社員のウェルビーイングとの関係を調べた結果、全カテゴリーの施策・制度をバランスよく、かつしっかり導入している組織ほど個人のウェルビーイングが高まることが明らかになっている。
「働きやすさ」に関わる制度だけでなく「やりがい」「声が届く実感」「能力の発揮」といった要素がそろうと、身体的にも精神的にも社会的にも満たされた状態、つまりウェルビーイングが高い状態に近づきやすいということだ。
「職場レベル」のウェルビーイングという新たな視点
池田准教授らは「個人の状態」に注目するだけでなく「職場レベルのウェルビーイング」という新たな概念を用いて、両者の関係や組織の生産性、業績などへの影響などを調査。それを基に、職場とそこに属する個人のウェルビーイングを測定する新たな指標「OWI(Organizational Workplace Individual)ウェルビーイング・サーベイ」を開発した。
その際、「職場レベルのウェルビーイング」に必要な要素を以下のように整理している。
- 職場(チーム)において、課題に取り組む目的や、それに関わる目標が共有されている
- 職場でポジティブな感情(ムード)が共有され、信頼関係が醸成されている
- さらに職場のメンバーがイキイキと課題に取り組み、
- その結果として、職場(チーム)全体で達成感を共有している
そして企業の従業員を対象にした調査で、個人のウェルビーイングと所属する職場のウェルビーイングに高い相関があることを見出した。ウェルビーイングな個人が同僚にも良い影響を与え、職場全体の状態を高めていく。逆に職場全体の信頼関係や良好な雰囲気が、個人のウェルビーイングを底上げする。この相互作用が確認されたのである。
また、5つのカテゴリーの施策・制度をバランスよく導入している組織では、職場レベルのウェルビーイングが生産性や業績目標の達成にも強い影響を与えることも明らかになっている。
個人と組織の「好循環」が生まれている組織の事例
筆者が過去に取材した企業の事例からも、仕事にやりがいを感じ主体的に取り組むことを促進する施策や、チームとの良好な関係性を実現する取り組みが、個人と組織のウェルビーイングを相互に高める原動力になっていることが見て取れる。
例えば「店舗中心経営」を掲げ、店長の裁量やキャリアアップの可能性を大幅に拡大したすかいらーくグループは、人手不足の中でもパート・アルバイトの確保と定着を実現している。
参考:「年収1000万円店長」誕生へ すかいらーくの徹底した「店舗中心経営」が生み出す好循環
障害者雇用に積極的に取り組むマネーフォワードは、単なる福祉ではなくキャリア支援という方向性を明確に打ち出すことで法定雇用率を超える採用と高い定着率を実現するとともに、多様なキャリアアップの道も開いている。
参考:障害者雇用「3%超」の先進企業、マネフォが求職者面接で必ず聞く質問とは?
全社のバリューの共有に力を入れた上で社員の自主性を重んじ、組織ぐるみで応援する雰囲気のあるWorks Human Intelligenceでは、社内の有志が企画・運営するウォーキングイベントが定例化している。それが、社員同士のつながりを生みながら、仕事へのモチベーションやスキルアップにも波及している。
参考:「社員の自主活動」が成功する会社は何が違う? マイクロソフト、セールスフォースを見てきたWHI社CHROが分析
単に健康や働きやすさの向上にとどまらず、社員がいかに仕事にやりがいを感じ、能力を発揮できる状態を作り、チームとしての力を高められるか──そこまでを意識してウェルビーイングの向上を図ることで、組織の成長が後押しされる。そんな好循環こそ、企業が目指すべき人的資本経営の在り方ではないだろうか。
やつづかえり
コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立。2013年より組織に所属する個人の新しい働き方、暮らし方の取材を開始。『くらしと仕事』編集長(2016〜2018)。「Yahoo!ニュース エキスパート」オーサー。各種Webメディアで働き方、組織、イノベーションなどをテーマとした記事を執筆中。著書に『本気で社員を幸せにする会社』(2019年、日本実業出版社)。
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