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「Amazon Go」全店閉店は失敗ではない 無人店舗の「誤算」と次の一手石角友愛とめぐる、米国リテール最前線(2/4 ページ)

米Amazon.comの「Amazon Go」全店閉店のニュースは大きな話題になりました。果たしてこれは失敗なのでしょうか? 筆者は、Amazonはすでに「無人店舗」での学びを次に生かすフェーズにあると、考えています。

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全店閉店に至った3つの要因

 Amazon Goは2018年のオープン当初、2021年までに最大3000店舗へ増やす構想が報じられていました。本格的な小売ビジネスとして、スケールを前提に設計された事業だったのです。では、なぜ全店舗を閉店する判断に至ったのでしょうか。

 主な要因は「コストの増大」「既存店舗に対する優位性を確保することの難しさ」「運用の属人化」の3つにあると考えられます。

 まず、無人店舗特有のコスト構造を見ていきましょう。Amazon Goの導入には、100万ドル(約1億5900万円、1ドル159円で計算)以上の初期投資がかかるといわれています。最新のエッジAI(監視カメラなどの端末にAIを搭載し、クラウドを介さずその場でデータを高速・リアルタイムに処理する技術)に対応したカメラ、センサー、認証デバイスなどは非常に高額です。

 さらに運用コストも重くのしかかります。Just Walk Outの年間運用コストは、1000平方フィート(約50畳)規模の店舗で約16万ドル(約2600万円。1ドル159円で計算)に上ります。これらのコストは、小売ビジネスを継続・拡大していく上で大きな負担となります。

 加えて、UX(顧客体験)の面でも課題がありました。利便性は評価される一方で、既存スーパーに対する明確な優位性を築ききれなかったのです。

 「レジなしの買い物」という体験は、初回の来店動機としては機能したかもしれません。しかし、日常的な買い物では、価格や品ぞろえ、アクセスの良さといったポイントが優先されることが多いです。Amazonの無人店舗は便利ではあるが、気づけば足を運ぶような「いつもの店」にはなれなかったのです。

 運用の属人化も見落とせないポイントです。無人店舗といっても完全に人が不要になるわけではありません。実際にはシステム監視や誤検知対応、商品配置とセンサーの整合調整など、高度なオペレーションが求められます。専門知識も必要になるため、人材確保は簡単にはいきません。教育コストの増大などが、店舗運用の不安定化につながっていったと考えられます。

 つまり、「コスト」「顧客価値」「運用体制」という3つの観点でスケールの壁に直面していたことが、今回の撤退判断につながったと見ることができます。

 また主たる要因ではないものの、日常生活において馴染(なじ)みのない「無人店舗」という形態も、拡大の障壁となったのかもしれません。

 UXの向上としてシームレスな購買体験に注力したことは良いですが、さまざまな種類の商品を取り扱う店舗である以上、どこかで消費者は店員の存在を求めている可能性が高いです。来店客は「そのまま店舗の外に出てしまって問題はないのだろうか」という緊張感や、「トラブルが起こった際に迅速に対応してもらえるのか」という不安を覚えていたかもしれません。また、店員がいない代わりに無数のカメラで常にトラッキングされているという心理的なプレッシャーを感じる人も少なくないでしょう。

 Amazon GoのUXの改善は、単なる効率化やスムーズな購買体験だけでなく、消費者の購買心理にも大きな変化をもたらしたといえます。

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