ギリギリの管理職を苦しめる「共感呪縛」 罰ゲームを押し付け続ける経営層の罪:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/3 ページ)
数年前から「管理職は罰ゲーム」と呼ばれるようになりました。しかし、経営層は疲弊し切っている管理職に新たなプレッシャーを畳み掛けます。流行りの「共感マネジメント」です。
管理職は過酷な「感情労働」に変わりつつある
「もう限界でした。妻に病院へ行った方がいいと言われて、私はホッとした。ああ、これで休めるって。結局、私はうつ傾向と診断され、ひと月の休職期間を経て復職。部下のいない部署に配属されたので、残業は増えましたが、ストレスはありません」
「でも、やりがいという点では、以前の方があったかもしれません。うまく言えないのですが、自分は慕われているという感覚が心地よかった。部下に頼られたり、悩みを打ち明けられたりするのが、案外うれしくて。自分から付き合っている女性の話をしてくれる部下もいましたから。自分が必要とされていると、勘違いしていたのかもしれません」
こう話すのは、30人の部下がいた40代前半の課長職の男性です。
3年前に管理職に昇進した彼にはZ世代の部下、役職定年になった年上部下、育休で抜けたメンバーの穴を埋める部下など、多種多様な部下がいました。そのため苦労が尽きなかった。そんな彼をさらに疲弊させたのが、自分を消して「分かるよ」と言い続ける共感呪縛でした。
ある朝、些細なことで妻に暴言を吐いてしまった彼。妻は予兆を感じていたのでしょう。「病院に行って」という言葉は、「もう十分頑張った」という労いであり、「これ以上続けたら壊れてしまう」という警告でもありました。
彼の経験が示唆するのは、管理職の変質です。なぜ管理職は「罰ゲーム」になったのか。その最大の要因は、業務が過酷な「感情労働」の側面を強めすぎたことにあります。
米国の社会学者アーリー・ホックシールドは、客室乗務員たちの労働状況を分析。「感情」を自分から分離させ、感情自体をサービスの一部にする「感情労働」の概念を提唱しました。
「彼・彼女たちは自分の仕事を愛し『楽しんでいる』ように働き、乗客が『楽しかった』とフライトを満喫できるように努めることが、彼・彼女たちの仕事の生産物となっている」というホックシールドの分析結果は、そのまま令和の管理職に置き換えられます。「管理職たちは自分の仕事を愛し『楽しんでいる』ように働き、部下たちが『楽しかった』と仕事を満喫できるように努めることが、管理職たちの仕事の生産物となっている」と。
Z世代の価値観を否定せず、個別の納得感を醸成する役割を演じ、年上部下のプライドを傷つけず、かつ適切に指示を出すリーダーの役割を求められる。欠員のカバーに疲弊する現場の不満を受け止め、寄り添い、一方で「これはハラスメントになりやしないか」「これはコンプラ違反になりやしないか」といった、ハラハラ地獄も日常茶飯事です。
本来、感情労働に従事する人には、組織的な教育やバックアップ体制がセットで検討されるべきです。にもかかわらず、教育やバックアップ体制の必要性も議論されず、ただただ「ひとつよろしく!」と任せる状態が、現代の管理職を疲弊させているのです。
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