「親の名前」を忘れていた高齢者が語り出した――AI内臓「昭和の青春ラジオ」が介護現場を変えている(3/5 ページ)
生成AIを使ったラジオが、介護現場で導入されようとしている。懐かしい曲や当時のニュースを流すことで、介護施設利用者の記憶を呼び覚ますことができているが、今後浸透する可能性はあるのか?
現場で見られた変化
実証実験に協力したのは、全国約1900の介護拠点を展開するニチイ学館だ。その一部の施設で、2026年1月下旬から2月下旬にかけて行われた。実証実験前は、スタッフに両親の名前や若い頃に働いていた会社を聞かれても、答えられなかった施設利用者も多い。しかし、若い頃のニュースやヒット曲を聴きながら同じ質問をされると、家族の名前を口にするだけでなく、当時の家のことまで話し始めたという。
「あの頃は車で東京を走り回って、ずっとラジオを聞いていた」「寝る前にラジオをつけっぱなしにしていた」などと、20代だった頃の生活風景を自然と語り出す。1950〜60年代の音源を流すと、当時20代だった現在の80〜90歳代が最も反応するという。
ある利用者の娘が同席した回では、母親が東京の目黒区で働いていたという話が初めて明らかになった。親のアルバムを自作するほど母親思いの娘でも、聞き出せていなかった過去だという。
「利用者が、ご自身の情報を自然に話してくださるので、『昔そんなことをしていたんだ』『ご家族はそういう方だったんだ』と、聞いているこちらも楽しくなります」
このように手応えを語るのは、ニチイ学館の人財開発事業本部理事本部長でGENBA SMILE Lab所長の松本裕美子氏だ。スタッフからは「私もほしい」との声まで上がったという。
良い反応は数字にも表れている。表情解析では、口角の角度などで測る笑顔の値が平均8.7%上昇し、最大23.8%上昇した利用者もいた。骨格推定による身体活動量解析では身振り手振りが10%増加し、1分当たりの発話量は10.8語増えた。
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