1on1は「上司が求める正解」を答えるだけ──本音を言わない社員を変える“いい対立”の作り方:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/4 ページ)
昨今、人的資本経営の潮流のもと、エンゲージメントサーベイや定期的な1on1ミーティングを導入する企業が急増しています。企業があの手この手で社員の「本音」を回収しようとする一方で、なぜ社員の口は重いままなのか。今回は「本音の不発」が起きる構造的背景を解き明かし、企業が目指すべき真の「心理的安全性」についてあれこれ考えます。
「本音」ではなく「異論を言える空気」をつくる
しかし、現在の多くの組織では「異論を唱える人」が「面倒な人」や「組織に適応していない人」と混同されています。その結果、優秀な社員ほど「沈黙は金」と判断。「上司が求める正解」を探し、エンゲージメントサーベイには無難な評価をつけ、1on1では当たり障りのない進捗報告に終始するのです。
そこで求められるのが、リーダーの「心理的柔軟性」(Psychological Flexibility)です。
心理的柔軟性は、自分の思考や感情を受け入れながらも「現在、目の前で起こっていること」や自分の価値観を軸に判断し、行動を選択する力のこと。会社や上司が求める「正解」ではなく、自分が感じる「違和感」や、自分の頭で考えた「意見」が言える空気をチームにつくる。目指すべきは「いい対立」を作る構造です。
では、悩めるリーダーはどのようにして「本音ではなく、異論を言える空気」をつくり、それを戦略に組み込めばいいのか。結論から言えば「感情ではなく意見」を歓迎するチームづくりです。その一歩として「デビルズ・アドボケイト」(悪の代弁者)を取り入れるのが、効果的です。
デビルズ・アドボケイトは、カトリック教会で、新しく聖人を認定する際に「その人物が本当に聖人にふさわしいか」を証明するために、あえてあら探しや反対意見を述べる役職(本来のラテン語: advocatus diaboli)が置かれていたことに由来する技法です。
例えば、重要な意思決定の場で「今日の会議では、Aチームはあえてこの案の欠点だけを指摘する係になってください」と役割を与えます。こうすることで、異論を唱えることが「個人の身勝手な本音」ではなく「組織から与えられた公的な任務」となり、心理的ハードルは劇的に下がります。
リーダーは「それで、それで?」と悪の代弁者の役割を任されたメンバーに対する関心を言葉で見える化し、どんどん異論を掘り下げてください。特に「組織の当たり前」に染まっていない、新入社員の異論を取り入れることは、古参のチームメンバーの心理的柔軟性の強化につながります。
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