財務諸表だけでは勝てない ブルームバーグ日本トップが語る「非構造化データ」の重要性(1/2 ページ)
デフレからインフレへ経済の潮目が激変した日本市場。もはや過去の数値(財務諸表)を眺めるだけのデータ経営では勝てない。情報の洪水におぼれず、気象や音声などの「非構造化データ」をいかに素早く選別し、リアルタイムの決断に生かすか。金融情報インフラを支えるブルームバーグの日本トップに、情報過多を突破するデータ経営学を聞く。
「今の日本は控えめに言っても、とても大きな変化の中にいるのは明らかです。私が初めて来た25年前と比べて状況は全く違いますし、5年前と比べてもかなり変化してきています。大きな要因の一つはデフレを脱却したことです。デフレからインフレに変わり、金融業界のさまざまな側面に影響を及ぼしています」
金融業界の現状をこう指摘するのは、世界の金融情報インフラを支えるBloomberg L.P.(以下、ブルームバーグ)で日本統括責任者を務めるノーマン・L・トゥエイボーム氏だ。2021年から日本全域での事業開発やサービスの実装、顧客サービスなど営業戦略全体を指揮している。
「インフレの状態になったのは、日本銀行が17年ぶりに金利を上げる決断を2024年3月にしてからです。株式市場が高値を更新しているほか、債券市場の金利が約30年振りの高さまで上昇しています。為替市場でも円安が40年ぶりの水準になるなど、それぞれのマーケットで大きな動きが起きている最中です」
デフレからインフレへと経済の潮目が激変した時代、経営層も財務諸表に並ぶ過去の数値(構造化データ)を眺めているだけでは、もう勝てない――。不確実性が高まる日本市場において、従来のデータ経営は、その意味を変えてきている。
日々生まれる「データの洪水」に飲まれることなく、いかに実務の意思決定のスピードを上げ、次の一手を導き出すべきか。情報過多を突破するデータの活用法から、熟練の暗黙知をナレッジに変える人材育成まで、ブルームバーグの日本トップに単独インタビューで聞いた。
ノーマン・L・トゥエイボーム(Norman L. Tweeboom)ブルームバーグ L.P.日本統括責任者 米ペース大学にて、経済学と統計学を専攻。卒業後リーマン・ブラザーズに入社し、債券ベンチマークやストラテジーインデックスの発展に従事した。ブルームバーグによるバークレイズ・リスク・アナリティクス・アンド・インデックス・ソリューションズ(BRAIS)の買収により、2016年にブルームバーグ入社。バイサイド・エンタープライズ営業部門アジア統括責任者を担当し、アジア太平洋地域のバイサイド向け戦略、推進、クライアントサービスに従事。ブルームバーグのポートフォリオやインデックスビジネスにおいて、地域戦略や事業開発を監督した。2021年より日本全域の事業開発、サービスの実装、顧客サービスなど営業戦略全体を指揮(撮影:アイティメディア)
「情報過多」を突破するデータマネジメント
ブルームバーグは1981年、実業家のマイケル・ブルームバーグ氏が創業した。インターネットが存在せず、タイムリーにデータを得ることが困難だった時代から、テクノロジーの力を活用し、ビジネスパーソンや金融機関をつなげて、誰もが同じデータを同じタイミングで見られる世界を実現してきた。
同社のビジネスの柱は、金融機関や投資家などプロフェッショナル向けにデータを提供する「ブルームバーグターミナル」だ。他にもエンタープライズソリューションの提供や、ニュース・メディア事業を展開している。
ノーマン氏は自社のビジネスについて「お客さまが日々抱えている課題を解決するミッションに基づいて、必要なものは全て提供できるように準備しておくのが私たちの使命」と話す。その上で、デジタル化が進み、AIが急速に進化する今、金融業界を始めとしたあらゆるビジネスの現場が抱える組織課題を次のように指摘する。
「経営において、今は情報やデータがありすぎる状態です。世界規模で毎日すごいスピードで新しいデータが出てきています。そのあふれんばかりのデータから、自社の経営にとって大切なデータをいかにして選択し、活用していくかが大きな課題です」
「データを入手して、分析し、ビジネスの決断をするのは、簡単なようでかなりの手間がかかります。グローバルに散らばっているデータを、コンプライアンスや権利の問題をクリアしながら入手して、信頼できるデータを選別しなければなりません。形式が異なるデータを、同じ基準で見られるように標準化することも必要です。人間では到底、追いつけないこのプロセスを、生成AIなどを活用して自動化する段階に私たちは来ています」
気象情報からインフレを予測 「非構造化データ」の実践活用術
ブルームバーグでは、生成AIを活用してデータ収集や分析を自動化している。ただ、ハルシネーション(ウソ)を起こすシステムによって、誤った情報を扱うことは、企業の意思決定においては絶対に許されない。ノーマン氏は、これまで以上に「データの中身」に加え、ガバナンス(統制体制)が重要になると主張する。
「今の世の中では、いわゆるLLM(大規模言語モデル)をはじめとする生成AIが、大きな注目を集めています。しかしLLMも、データがなければ全く機能しません。データはやみくもに取ればいいのではなく、正しく、タイムリーで、信頼できて、透明性とガバナンスが担保されていることが重要になっています」
さらに最先端の経営において注目が高まっているのが、非構造化データだ。従来は財務諸表などの数値(構造化データ)を使ってビジネス予測をしていた。しかし不確実性の高い現代では、競合が持っていない多種多様なデータをいち早く入手して、経営の仮説検証に活用する動きが加速している。
「非構造化データは、消費者の購買データや気象情報、衛星画像などのオルタナティブデータに加え、テキスト、音声、画像、動画など多種多様で大量のデータを指しています。これがなぜ重要なのかというと、例えば『今後数カ月は雨が降らずに農作物が不作になる可能性が見えると、食料品の価格が上昇し、インフレが加速する』といった経営の仮説を立てられるからです。高度な技術活用によって、ほぼリアルタイムに近い状況で分析が可能となり、いち早く次の一手へ活用できます」
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