「高そうで怖い」 名門「バーニーズ」が銀座の一等地で“コーヒー1杯”を売る理由:入店客数、新規客の購入が増加(2/2 ページ)
「高そうで入るのが怖い」「自分には関係ない」──高級セレクトショップであるバーニーズ ニューヨークが直面したのは、築き上げてきた伝統が知らず知らずのうちに「高級感という名の心理的バリア」を生み出してしまったという課題だ。銀座本店での大規模リモデルを事例に、来店ハードルを下げる秘訣を聞いた。
競合は伊勢丹ではなく、ファイブスターホテル
バーニーズの方向性を象徴するエピソードがある。とある顧客に「バーニーズの競合はどこですか?」と尋ねたところ、返ってきた答えは意外なものだった。「伊勢丹でなく、“ファイブスターホテル”だとおっしゃったのです」
ホテルの価値は宿泊だけではなく、滞在全体の体験にある。それと同じように、バーニーズも「訪れること自体が特別な時間」と感じてもらえる場所を目指す。店舗1階ではバリスタによるコーヒーを提供。「銀座六丁目でコーヒーが飲める場所」として、新たな非日常の時間を提供することで顧客を引き付けている。
「コーヒーを一杯飲む。その“非効率な時間”にこそ価値があるんです。お客さまがわざわざ電車に乗って銀座まで来てくれる理由にもなります」
実店舗×デジタル──ECは“再会の場所”という導線
デジタル戦略について、ルオ氏は「ECを“導線”として位置付けています」と語る。
「ECは売り上げの中心ではなく、体験の入口です。店舗で知ったブランドを検索し、2回目以降の購入につなげる導線なのです。実店舗での最初の体験をし、さらにオンラインで再会できるようにしたいと考えています」
リアルとデジタルを対立させるのではなく「双方をつなぐ導線」として設計するのがルオ氏の狙いだ。
ワンダーランドの原点──岩手で学んだブランドづくり
ルオ氏はかつて、米国の大学で映画制作について学んだ。エンターテインメントの重要性を身に染みて感じたという。日本に帰国後は岩手県で「ハロウインターナショナルスクール安比ジャパン」というボーディングスクール(全寮制学校)の立ち上げに携わり、そこでボーディングスクールの概念を伝えるマーケティングプロモーションを担当。岩手県全体の街づくりプロジェクトにも参画したという。
「ボーディングスクールの立ち上げでは、教育だけでなく“地域全体の街づくり”を考えました。その経験が今の店舗づくりにもつながっていると思います。ブランドも学校も、結局は“人が集まる場所”を作ることが大事なのです」
現在はMBA課程にも在籍中だというルオ氏。米国時代に培ったアントレプレナーシップ(起業家精神)について尋ねると、こう答えた。
「アントレプレナーという言葉は、少し特別に聞こえるかもしれません。ですが私にとっては、サバイバル(生き残る)という意味合いだと思っています。ファッション業界は変化が激しい。時代を切り開いていかないと生き残れません。革新的であることこそ、バーニーズのDNAなのです」
バーニーズは、顧客に対して衣類の消費を超えた「情緒的なロマン」を提供しようとしている。
「私たちは“大人のロマン”を届けたいのです。ロマンは、なくても生きていけますが、あったら心が豊かになります。日本中の大人がワクワクするような空間を作りたい」とルオ氏は語る。
タイパ(タイムパフォーマンス)や効率性ばかりが求められるデジタル全盛の時代だからこそ、同社があえて提供するのは、日常から切り離された“非効率な時間”だ。「わざわざ足を運ぶ価値」を空間とチーム接客で創り出す。それこそが、ルオ氏の描く次世代のラグジュアリー戦略の本質である。
「ファッションはカルチャーです。時代に取り残されないために、常に変化を恐れない。そしてその変化の先に、私たちが目指す新しい店舗体験の姿があります」
ファイブスターホテルをベンチマークとした空間設計は、顧客の心理的なハードルを下げる試みとして、機能し始めている。現代の小売・流通業の在り方に一石を投じることになりそうだ。
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