「高そうで怖い」 名門「バーニーズ」が銀座の一等地で“コーヒー1杯”を売る理由:入店客数、新規客の購入が増加(1/2 ページ)
「高そうで入るのが怖い」「自分には関係ない」──高級セレクトショップであるバーニーズ ニューヨークが直面したのは、築き上げてきた伝統が知らず知らずのうちに「高級感という名の心理的バリア」を生み出してしまったという課題だ。銀座本店での大規模リモデルを事例に、来店ハードルを下げる秘訣を聞いた。
前回の記事【高級セレクトショップ「バーニーズ」が新品と中古の二刀流 富裕層の「初めての中古購入」を狙うワケ】では、新品とユーズド(中古品)を融合させたバーニーズ ニューヨークの「高級リユース二刀流戦略」の舞台裏をレポートした。
ラグジュアリーファッションを展開する同社は、常に顧客に対して新たな体験を提供してきた。2025年秋には東京・銀座本店でオープン以来初となる大規模リモデルを実施。ラグジュアリーブランド特有の“ある課題”にアプローチした。
「高そうで入るのが怖い」「自分には関係ない」──同社が直面したのは、築き上げてきた伝統が知らず知らずのうちに「高級感という名の心理的バリア」を生み出してしまったという課題だ。
銀座本店で大規模リモデルでは、来店ハードルを下げることを意識し、1階フロアにカフェスペースや手頃なギフトエリア、ポップアップスペースを配置した。単に流行の衣類を並べる売り場ではなく、顧客が楽しめる時間を演出する「大人のワンダーランド」を目指している。
競合を百貨店ではなく「ファイブスターホテル」(五つ星ホテル)だとし、あえて“非効率な時間”を提供することによって、実店舗の存在価値を示した。この結果、リモデル後の銀座店では、新規顧客の購買数が20%も増えたという。
デジタルシフトや原材料高騰で小売業の在り方が変わる中、同社はなぜ空間と人への投資を強化したのか。バーニーズ ジャパンのペニー・ルオ(Penny Luo)社長に、リアル店舗が生き残るための体験型マーケティングの深層を聞いた。
ペニー・ルオ(Penny Luo) バーニーズ ジャパン代表取締役社長。中国のグローバルIT企業Tencentグループにて番組制作やライセンス事業に従事した後、2021年より450年の歴史を持つ英国名門校「ハロウインターナショナルスクール安比ジャパン」のスクールアンバサダーとして開校プロジェクトを主導。さらに、岩手ホテルアンドリゾートではリゾート事業再生のための都市開発責任者を歴任した。異業種における新規事業立ち上げやプロジェクトマネジメントの豊富な経験を引っ提げ、2023年にバーニーズ ジャパンへ参画。2024年7月に代表取締役社長に就任し、現在は旧来のビジネスモデルからの脱却を図るべく、収益基盤の再構築、マーケティング強化、新規顧客層の開拓といった全社的な改革の陣頭指揮を執る(以下、提供写真)
「まずはお店に入ってもらう」ことが第一歩
「バーニーズ ニューヨークって、正直ちょっと入りづらいですよね」――そんな言葉を、ルオ氏は素直に受け止めた。
「何の店か分からない」「高そうで怖い」「自分には関係ない」。顧客にアンケートを取ると、多くの人からこのような意見が集まった。リモデル前の銀座本店には明確な課題があったのだ。
創業から日本のラグジュアリーリテールを象徴してきた同ブランド。銀座本店の全面リモデルという決断を下したのには、時代の変化と「顧客との距離」を見つめ直す狙いがあった。
「高級感がバリアになっていたかもしれません。だからこそ、まず“入ってもらう”ことを目標にしました」
入店してもらうために設けたのが、1階の新コンセプトフロアだ。コーヒーを飲みながら休憩できるカフェスペース、手頃な価格帯のギフトコーナー「チェルシーギフト」、限定のスイーツや雑貨が並ぶポップアップエリア。いずれも「気軽に立ち寄れるきっかけ」を意識して設計した。
「お店の中に一歩入ってもらえれば、それでいいんです。思い出にタオル一枚でもいい。『あ、バーニーズってこういう場所なんだ』と感じてもらうことが第一歩なのです。これまでのバーニーズは、ファッションに詳しい人たちが訪れる“特別な場所”でした。しかし今の時代、それだけではお客さまの心を動かせません。“ワクワクする体験”を提供する場所にする。私たちは、もう一度生まれ変わりたいと思ったのです」
「ハードルを下げる」ための仕掛けは、明確な成果を出した。ギフトエリアとポップアップスペースを拡充した結果、銀座本店の新規顧客の購買数が前年比で20%増加しただけでなく、入店客数も大きく伸長した。店舗体験の強化が、単なるイメージ刷新にとどまらず、確固たる収益基盤の拡大に直結している。
ワンダーランドのような店舗体験を目指す
ルオ氏が何度も口にした言葉が「ワンダーランド」だ。
「ディズニーランドのような体験を大人に提供したい」と話すルオ氏。このテーマは比喩ではなく、店舗運営と組織文化そのものの再構築を意味する。リモデル期間中、スタッフたちは従来の“接客”を見直すワークショップを何度も重ねた。銀座本店の店長である遠藤宏明氏はこう語る。
「リモデルに合わせて、“笑顔体操”というトレーニングを始めました。ワンダーランドを作るには、まず自分たちが笑顔でいなければならないと思います。お客さまを自宅に招くような安心感を届けることが大事です」
これまで個人のスタイルを尊重していた接客方針も、チーム全体で統一した動きに転換した。例えば、どのスタッフも店内の全商品を案内できるように教育し、担当の垣根を超えて顧客に寄り添うよう呼び掛けたという。コンシェルジュを入り口に置き、予約や要望を聞きながら各フロアの専門スタッフと連携する仕組みも導入した。
「バーニーズの強みは“個の専門性”でした。しかし今は、チームでお客さまを迎えています」
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