「誰にも会わずに帰る店」の寂しさ すかいらーくがロボット配膳の先に挑むAI接客(1/2 ページ)
デジタル化が進み、人と接することなく食事を終えられる飲食店が増えている。その利便性の裏で失われつつある「人ならではの価値」をどう取り戻すのか。すかいらーくホールディングスは、AIを人の代替ではなく、人の価値を引き出す道具として活用し始めている。
客席にあるタブレットで料理の注文を済ませ、ネコ型ロボットが配膳、セルフレジやテーブル決済で会計を終える――。すかいらーくホールディングス(HD)の店舗では、デジタル活用が進んでいる。
しかし、効率や利便性が高まる半面、店舗スタッフと来店客が接する機会が減少していた。
「『誰にも会わずに帰ってきた』というお客さまのSNS投稿もありました。これを“便利”“楽”といったポジティブに考える人がいる一方で、寂しさを感じている人もいます。DXによる効率化が進む中で、当社ならではのホスピタリティをいかに発揮していくか、課題を感じていました」
そう話すのは、IT本部AI推進チーム リーダーの藤本祥恵氏。AI推進チームでは、店舗を含む社内でのAI活用を進めつつ、外食業が直面しがちなこのジレンマに挑んでいる。
同社のAI活用は、600人以上が生成AIの研修に参加し、本社社員の8割超が日常業務で生成AIを活用するまでに定着した。取り組みをけん引した藤本氏は、AIに挑戦し自分の選択肢を広げた女性を「ロールモデル」として表彰する「WOMAN AI AWARD 2026」(主催:Women AI Initiative Japan)にて、コミュニティ賞を受賞した。
効率化とホスピタリティの両立――。その難題に対し、同社はAIを「人の代替」ではなく「人の価値を引き出す道具」として活用し始めている。
「たった1行」のデータを探す日々 「現場が使えるDX」の視点
藤本氏は、新卒で同社に入社後、店舗での接客・調理からキャリアをスタートし、本部での採用や秘書業務を経て、DX推進に携わるように。1月にAI推進チームが発足し、社内でのAI活用を本格化させている。
DX推進に携わり始めた当初、藤本氏が直面したのは、現場に届くデータの「速度」と「粒度」の乖離(かいり)だった。
「当時はお店の成績や各種数字をPDFで各店に配信していました。店舗にオフィスツールを使えるPCがなかったからです。大きな課題は、前月の実績データが店舗に届くまでに半月近くかかっていたことでした。しかも、送られてくるのは全店網羅された巨大なPDF。店舗側からすれば、その中の『たった1行』だけが自店のデータでした」
届いたPDFから自店の数字を探し出すだけで多くの時間を費やしていた。「先月何が起きていたか」を振り返って対策を講じる頃には、すでに月の半分が過ぎており、具体的な改善アクションにつなげにくい状態だったという。
2019年にGoogle Workspaceが導入されたことをきっかけに、スプレッドシートやダッシュボードツールが店舗でも使用可能になった。現在も藤本氏は、ツールを駆使し、店舗オペレーションに負荷をかけず、現場が活用しやすい形でデータを配信する仕組みづくりに取り組んでいる。
店舗スタッフとして働いていた経験や、この時の「現場が本当に使えるものを届ける」という視点は、AI活用を進める上でも生かされている。
「誰にも会わずに帰る店」を変える AI接客の挑戦
AI推進チームの取り組みの一つが、生成AIを活用した店舗接客「Co店長」だ。来店客はタブレット画面上のAIキャラクターとチャット形式でやり取りし、メニューの相談や雑談ができる。
背景にあるのは「誰にも会わずに食事を終えて帰る寂しさ」への危機感――かつては、スタッフが客席まで案内し「今日のおすすめメニュー」を提案していた温かみを、AIで補えないかという挑戦だ。現在、2店舗で実証実験を進めている。
顧客から「料理がおいしかった、ありがとう」といったチャットや、メニューへの要望が寄せられるなど、顧客体験の向上だけではない効果も見られ始めている。
「店舗では『ありがとう』などの言葉をいただく機会があまりありません。デジタル化により、接点が少なくなるとなおさらです。お客さまからいただくチャットは、メニュー改善などはもちろん、店舗スタッフのモチベーション向上にもつながるのではないかと考えています」
店舗の接客品質を高めるAIプロジェクトも並行している。それが、入退店時の「あいさつの品質」を可視化する「いらあり」だ。店舗に設置しているカメラを使って、入店音が鳴った後の10秒間を録音。スタッフが「いらっしゃいませ」と適切に声掛けできているかをAIが分析する。
また、同社ではセルフレジ店舗の場合も、顧客が会計を終えると、それを知らせる音が鳴り、その音を聞いたスタッフがフロアに出て行き「ありがとうございました」と接客をするのがルールとなっている。そのため、顧客の退店時にも声掛けができているかを計測・分析する。
ガヤガヤとした店内の騒音の中から、適切にあいさつが行われたかをAIで判定するのは技術的ハードルが高く、実証実験で試行錯誤を重ねている段階だが、このプロジェクトが全店に広がれば、これまでは見えなかった接客品質をデータ化できる可能性がある。
「例えば、声掛けができていない店舗があれば、人員配置やオペレーションに課題があるのかを検討できます」
現在は「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」の計測だが、この仕組みを発展させて、店舗の様子を可視化できるようになれば、本部からは見えない店舗の課題発見につながる。それにより、より店舗スタッフが働きやすい環境づくりを目指すという。
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