「売上増なのに資金がない」 創業105年、老舗納豆メーカーの危機を救ったAI時代の資金調達:AIが変える“カネを貸す”条件(1/2 ページ)
決算情報の少なさや少額融資の採算性など、中小企業の資金調達には構造的な壁がある。その課題を変えつつあるのがAIをはじめとするテクノロジーの活用だ。多様な資金ニーズに応える、新たな選択肢が広がり始めている。
特集「AIが変える“カネを貸す”条件」
AIやデータの活用により、金融機関の融資や与信判断の在り方が変化し始めている。金融機関はこれまで、財務諸表などの定量データをベースに膨大な時間をかけて審査をしていた。しかし生成AIの普及により審査業務が効率化され、短期間・少額の融資やデータ駆動型のデット調達(ベンチャーデットなど)が広がりつつある。
従来は融資を受けにくかった中小企業やスタートアップが、資金調達しやすい環境が整い始めた。特集では、取材を通じて、AI時代の「カネを貸す条件」について考えていく。
第2回:早大教授に聞く AIが発展するほど「経営者の資質」が問われるワケ
第3回:稲葉納豆工業所の資金調達の裏側(本記事)
第4回(予定):Zehitomoが引き出したデータ駆動型融資
大企業と比較して、中小企業やスタートアップは資金調達において直面するハードルが高い。この課題の背景には、大企業と中小企業の間で、金融機関が把握できる経営情報の量や質に差がある「情報の非対称性」があると指摘されている。
上場企業などでは四半期ごとに第三者監査を受けた決算を発表するケースが多い一方、中小企業の決算は年1回に限られ、監査を受けていないケースも少なくない。決算書の鮮度や精度が大企業よりも低くなりやすいため、銀行は企業の実態を把握しづらい(参考記事:「融資」現場にAIの足音、資金調達どう変わる? カネを借りられる企業の条件、専修大教授に聞く)。
金融庁の調査によれば、既存融資において個人保証を提供している中堅・中小企業の割合は49.5%に上り、企業規模が小さいほどその割合は高い傾向にある。経営者個人の資産を担保にしなければ融資を受けにくい――。この構造的なハードルは依然として存在する。
さらに、中小企業への融資は大手企業と比較して少額であるケースも多く、少額案件は審査や事務手続きにかかるコストに対して収益性を確保しにくい。そのため、金融機関にとっても対応が難しい領域とされてきた。
しかし、AIの活用によってこの状況に変化が訪れつつある。
「経営をしていると、突発的に50万〜200万円ほどの資金が必要になるケースがある。少額の融資は銀行では受けにくく、時間もかかる」
そう話すのは稲葉納豆工業所の3代目、稲葉好聡氏。栃木県足利市にある同社は、創業105年の老舗納豆メーカーだ。稲葉納豆工業所もまた、資金調達の壁に悩まされてきた企業の一つだった。
売り上げが伸びるほど資金繰りが苦しくなる葛藤
以前は地元のスーパーマーケットなどに商品を納品していた稲葉納豆工業所だが、大手食品メーカーとの価格競争に陥り、業務用や道の駅向けの手作り納豆へと事業をシフトさせてきた。
コロナ禍での低迷を乗り越え、現在は大手問屋などからの引き合いが増加。問屋を通して、全国のホテルや弁当店で使用する納豆を作っている。
取引先が大手になり、受注量が増えたことで売り上げは順調に推移しているが、売り上げの増加は同時に資金繰りの厳しさを招くこととなった。
「原料の仕入先には1カ月以内に支払いをしなくてはならないものの、納品先である大手企業などからの入金は2カ月後。受注量が増えて売り上げが急激に上がる時ほど、たくさん原料を仕入れなければならず、必要な資金も増える。この『入金までの1カ月のズレ』をどう乗り越えるのか、資金繰りが大変になる」(稲葉社長)
さらに「手作り納豆」ならではの突発的な支出も追い打ちをかける。納豆の製造機械の多くは特注品で、リース契約が組めないものも少なくないという。機械が故障した際や、供給年限(メーカーが修理用部品を保有・供給する期間)が終了する修理用部品の確保には、突発的に数十万〜数百万円の現金が必要になることもある。
しかし、銀行融資では「50万〜200万円という少額」や「修理代などの急な支払いに間に合うスピード」での調達は難しいのが現実だ。
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