金沢一極集中から「能登周遊」へ Trip.comが挑む“旅が復興になる”新ジャンルの勝算(2/2 ページ)
インバウンドで沸く金沢と、震災から2年半が経ち観光需要を求める能登半島の構造的ギャップに着目し、Trip.comが復興支援プロジェクトを始動した。金沢の高級ホテルと能登の老舗酒蔵を結ぶ体験型プランを展開。再訪や周遊を生む「LTV型モデル」をいかに構築するのか。外資プラットフォームが地域と信頼を築き、持続可能な観光ビジネスを生み出す戦略に迫る。
継続可能な「新・旅行ジャンル」を成立させるために
ボランティア的なCSRは、一時的な取り組みに終始しがちだ。だが、ビジネスとして継続可能な「新たな旅行ジャンル」(Hope Tourism)として成立させるためには、収益モデルの構築やLTV向上が欠かせない。その見込みはあるのか高田氏に聞いた。
「私たちは、この取り組みを、短期的な収益獲得を目的としたプロジェクトとは考えていません。Trip.comにとっても日本初の試みで、市場からどんな反応が得られるのかは、これから検証する段階です」
「一度きりの支援で終わらせず、旅行を通じて地域との継続的なつながりを生み出すこと」を重要視していると話す。
「国内外のお客さまに対し、新しい旅の選択肢を提案することもTrip.comの重要な役割です。『支援する側・される側』という一方向の関係でなく、旅行者が地域の魅力や人々と出会い、その経験から『また訪れたい』『誰かに紹介したい』『これからも応援したい』という気持ちにつながる継続的な関係を生み出すような、旅のきっかけを作りたいと考えています」
顧客体験を向上させることで、再訪(リピート)や口コミ、周辺地域への周遊、宿泊や体験商品の追加利用などにつなげられれば、ビジネスとしての可能性が広がる。「短期的な一回の予約収益ではなく、地域への関心と旅行者との接点を長期的に育てたい。その結果として、LTVが高められます」と話す。
「まだ始まったばかりで、事業性については未知数な部分もあります。しかし、まず能登で検証を重ね、地域と旅行者の双方に持続的な価値を提供できる仕組みを確立する。その上で、将来的に日本各地に展開できるような新しい観光モデルの一つへ成長させたいと考えています」
「金沢一極集中」を壊す 旅前・旅中・旅後を貫く周遊デジタル戦略
現在、円安によって記録的なインバウンド数となり、石川県では「金沢」の一極集中が起きている。Trip.comが持つ海外顧客基盤(特にアジア圏)を使い、インバウンドを「金沢から能登」へ引っ張る(周遊させる)ためのデジタル・マーケティングはどのように実施しているのか。
「まずは『能登は今、訪れることのできる旅行先である』という認知を国内外に広げる必要があります。今回の特別宿泊プランを機に、まずは金沢を訪れる旅行者に能登を知っていただき『能登を次の目的地として訪れることができる』という認識を持っていただくこと、さらに将来的に、交通、宿泊、飲食、体験を組み合わせ、旅行者が実際に金沢から能登へ足を延ばしやすい周遊商品に発展させることが重要です」
Trip.comの強みは、どこにあるのか。高田氏は「旅行前の情報発信から予約、現地体験、さらに帰国後の情報共有や再訪促進まで一連の顧客接点を活用できること」だと語る。今回の取り組みの効果も、広告の閲覧数だけで判断するのでなく「特別宿泊プランの予約数」「能登関連コンテンツからの送客数」「金沢から能登への周遊率」「再訪意向や口コミ」を継続的に検証して改善を重ねていくという。
「上から目線」は絶対にNG 外資プラットフォームが地域と築く信頼の作法
外資OTAであるTrip.com。日本の地方自治体や、松波酒造のような歴史ある地元の被災事業者と連携する際、文化の壁や信頼関係はどう構築したのだろうか。
「私たちはグローバル企業である以前に、地域の皆さまにとって信頼できるパートナーでありたいと考えています。Trip.comは外資系OTAですが、日本国内に400人以上の従業員を擁し、全国8カ所のオフィスを通じて、各地域の観光産業に根差した取り組みを続けています」
今回も、まず現地へ足を運んで現場の声に耳を傾けることから始めたという。「地域が今どのような状況にあり、何を必要とし、何を大切に守ろうとしているのか」を正しく理解することが、信頼関係を築くための出発点だ。
「地域の復興には、それぞれの土地が長い年月をかけて育んできた歴史や文化、そして守り続けてきた価値観があります。特に、松波酒造さんのように長い歴史を持つ地域事業者とご一緒する際、外部の企業が自らの論理やスピードを押しつけるべきでなく、地域が大切にしてきたものに敬意を払い、対話を重ねながら、同じ目線で一緒につくり上げていく姿勢が何より重要です」
特に、高田氏自身が“リーダー”として大切にしたのは「まず現地へ行くこと」「相手の声を聞くこと」「短期的な成果を急がないこと」の3つだ。「企業規模や国籍の違いではなく、約束したことを一つずつ実行し、行動を積み重ねることによってしか本当の信頼は得られない」との考えを持つ。
「地域の皆さまと対話を重ね、それぞれの強みや思いを持ち寄る中で、形になったものです。このプロジェクト自体がこれまで積み重ねてきた信頼関係の一つの成果だと感じています。今後も一度限りの支援や企画で終わらせるのではなく、長期的なパートナーとして地域に寄り添い続け、能登の皆さまが大切にしてきた文化や魅力を尊重しながら、それを国内外の旅行者へ正しく届け、地域との継続的な関係づくりに貢献していきます」
石川県内を訪れるインバウンド数は、過去最多水準まで回復した。今後は地域全体で、観光を活用した持続可能な地域活性化が求められている。例えば、石川県はインバウンド需要回復を受け、外国人観光客の地方周遊促進に向けた取り組みを本格化。石川県観光連盟も2026年6月に「インバウンド推進部」を新設し、金沢一極集中から能登・加賀地域への誘客、リピーター獲得を推進中だ。さらに、小松空港では韓国や台湾などアジア路線の利用が伸びており、能登・加賀エリアへのインバウンド拡大も期待されている。
インタビュー中で何度も出たのが「交流人口」という言葉だ。交流人口は定住者でなく、観光や出張などでその地域を訪れる人々のこと。観光で地域の活気を取り戻す役割を担う。何度も訪れるリピーターにもつながる。全世界にユーザーを持つTrip.comに対する能登町の期待は大きい。
単なる一瞬の交流人口で終わらせず、能登のファンとして何度も訪れる「関係人口・LTVの最大化」へと、どうつなげるか。全世界に顧客基盤を持つTrip.comが提示するモデルは、日本の過疎地・地方創生における新たな方法論となりそうだ。
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