金沢一極集中から「能登周遊」へ Trip.comが挑む“旅が復興になる”新ジャンルの勝算(1/2 ページ)
インバウンドで沸く金沢と、震災から2年半が経ち観光需要を求める能登半島の構造的ギャップに着目し、Trip.comが復興支援プロジェクトを始動した。金沢の高級ホテルと能登の老舗酒蔵を結ぶ体験型プランを展開。再訪や周遊を生む「LTV型モデル」をいかに構築するのか。外資プラットフォームが地域と信頼を築き、持続可能な観光ビジネスを生み出す戦略に迫る。
北陸新幹線がもたらした訪日外国人観光客(インバウンド)の熱気に沸く金沢。一方でそこから車を走らせた能登半島では、地震と豪雨から2年半が経過した今も「支援だけでなく、実際に訪れて消費してほしい」という地元の切実な叫びが響いている──。
この観光需要の構造的なギャップに目を付け、本格展開に乗り出したのが世界有数のオンライン旅行代理店(Online Travel Agent、OTA)であるTrip.com(トリップドットコム)だ。
同社は石川県能登町で「Go, walk with Noto 〜旅が復興支援になるHope Tourismプロジェクト〜」を始動。金沢のラグジュアリーホテル(ホテル日航金沢)や地元ホテルと、地震で全壊した後にトレーラーハウスとして再起を図る能登町の老舗酒蔵、松波酒造などを結び付け、地域の歴史やストーリーを価値に変える体験型プランの販売を開始した。
ボランティアや社会貢献活動(CSR)で終わらせず、一度の訪問をリピートや周遊へと変えていく「LTV(顧客生涯価値)型モデル」をいかに構築するのか。Trip.com日本法人社長の高田智之氏らを取材し、外資プラットフォームが日本の過疎地・被災地と信頼を構築する現場を追った。
震災から2年半の風化に抗う 社長が「今、能登で動く」と決めたワケ
2024年1月1日の能登半島地震から、約2年半が経過した。現在も復興への取り組みが進む。その一方で、全国的には、被災地への関心が薄れつつあり、現地から「支援だけでなく、実際に訪れてほしい」という声が多々あると、高田氏は語る。
「私自身、前職で石川県を担当していて、仕事で何度も能登を訪れました。そのうちにこの地域に強くひかれ、プライベートでも家族と足を運ぶようになりました。キリコ祭りをはじめとする文化、豊かな食、そして地域の皆さまの温かさに触れ、能登は私にとって大切な場所になりました。その能登を地震と豪雨が襲い、地震後も現地へ通い続ける中『観光に携わる私たちに何ができるのか』『どのタイミングで、どんな形で取り組むことが地域にとって本当に意味を持つのか』をずっと考え続けてきました」
個人としての強い思い入れに加え、プラットフォーマーのトップとして「単発のCSRに終わらない、持続可能な経済循環の創出」へ踏み出すタイミングを模索していたようだ。
Trip.comでは7月27日より松波酒造と、ホテル日航金沢の特別宿泊プランを販売している。日本酒「大江山」などの銘柄で知られる松波酒造は、地震によって酒蔵や自宅が全壊。現在も、別の酒蔵で製造する自社の日本酒などを、トレーラーハウスの仮店舗で販売する。
「今回のプロジェクト第1弾で、Trip.com限定の特別宿泊プランを販売しています。ホテル滞在に加え、能登の食材を使用した特別会席、日本酒の飲み比べなど、金沢に滞在しながら能登の文化や魅力、その背景にあるストーリーに触れていただける内容です」
海外からの需要は倍増以上 受け入れ体制に課題
石川県への関心度は海外市場で急増している状況だ。Trip.comの自社データによれば、石川県を訪れるインバウンド旅行者は、香港や台湾、シンガポールで前年比の約2.7倍、マレーシアで約3倍、米国で約2倍に達したという。ホテルだけでなくレンタカー予約など周辺サービスの利用も増え、インバウンドが能登へ立ち寄る可能性が高まっている。
海外マーケットからの需要は跳ね上がる一方、この熱量をいかにして金沢市から能登へ流し込み、現地側の受け入れ体制とつなげるかが課題だ。高田氏も「現地情報の整備や受け入れ体制の準備が重要」と指摘する。
首都圏からは北陸新幹線、海外からは飛行機でアクセスが便利な金沢市には、日本人の観光客やインバウンドが多く、OTA利用ももちろん多い。だが、被災地の復興は、いまだ道半ばである。
能登町の吉田義法町長は「今までの2年半は、良くも悪くも、住まいの再建などで手がいっぱいでした。今やっと事業者の皆さんが懸命に営業再開や再建に取り組み、観光も少しずつ受け入れられる環境が整ってきています。能登を訪れて食や自然、そして復興へ歩む今の姿をぜひご覧いただきたい。地域の魅力を発信していただくことが、復興への大きな力になります」と、能登への訪問を呼び掛けていた。
ホテル日航金沢の岡島憲孝氏も「石川県の宿泊は今も金沢市がメイン。1泊だけでなく2、3泊して能登へも足を運んでもらえるようにしたい」と語っていた。
松波酒造の若女将(おかみ)、金七聖子氏は「今までとても観光どころではなかった」と振り返る。2025年9月に店を再開したものの、日本酒の製造は地震発生直後から救いの手を差し伸べてくれた他の酒蔵で行い、店舗は現在もトレーラーハウスでの営業が続く。
7月中旬には、高田氏をはじめとするTrip.comの社員130人が、能登町へ向かった。復旧途上の和倉温泉街の視察や松波酒造での瓦礫(がれき)撤去など、汗を流してボランティア活動に励んだ。現場の課題や事業者の生の声を取り込む「超・現場主義のフィールドワーク」としての側面も持つ。松波酒造の金七氏も「また聞きではなく、現場に来て肌で感じてもらえるのが何よりありがたい」と語る。
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