離職率低下は「定着」か、それとも社員の“諦め”か──「人が辞めない会社」が見逃しがちなリスクとは?(2/4 ページ)
人が辞めないことは、企業にとって歓迎すべきことなのか──。米国で進む人々が会社を辞めない「ビッグステイ」現象を通して、日本のITエンジニア市場で起きている変化を読み解きます。
日本で起きている転職「できる人」と「できない人」の二極化
これまでのIT人材の採用では、特定のプログラミング言語の経験やクラウド利用経験、マネジメント経験年数など、保有スキルや経験が大きな基準になっていました。ところが、現在はそれだけでは足りなくなっています。例えば、
- 何をつくるべきかを整理できる
- 技術と事業の間をつなげられる
- AIが生成した成果物を検証できる
- 顧客や他部門と合意形成できる
- 不確実な状況で判断を下せる
といった「技術+α」の力が問われています。不足しているのは大きなくくりの「IT人材」ではなく、自社の課題を解決できる具体的な経験を持つ人材です。人手不足は続いている。しかし、求められる要件は確実に変わっている──これが今のITエンジニア市場の実態です。
人が辞めなくても安心できない 「静かな退職」というリスク
ここで考えたいのが、ビッグステイと「静かな退職」との違いです。
静かな退職とは、会社を辞めるのではなく必要最低限の仕事だけを行い、それ以上の貢献や成長を求めなくなる状態を指します。
ビッグステイと静かな退職は「会社に残る」という同じ行動をとるものの、同じ現象ではありません。両者の大きな違いは、市場の動きを見ているか、各社員の社内での姿勢を見ているかという部分にあります。
米国で言われるビッグステイは、転職市場の流動性が下がり、労働者全体が「動かない・動かない方が得」と判断して会社に残るマクロな現象です。一方、静かな退職は会社に在籍しながらも業務への心理的エンゲージメントを切り離し、必要最低限の仕事しかこなさないミクロな心の状態を指します。
日本の現状は、全員が納得して残る「ビッグステイ」ではありません。むしろ「転職したいが条件に合う先がない」「選考を通過できない」といった理由で動けずに残らざるを得ない状態が増えています。
- 転職したいが希望する求人がない
- 市場に出ても評価されないと感じる
- 今の仕事に不満はあるが、生活条件を変えられない
- 会社に期待しても状況は変わらないと諦めている
といった「動けずに残った状態」が長引くことによって、社内で「静かな退職」へと変化していくリスクがあります。会社には在籍しているものの、新しい役割には手を挙げず改善提案もしない。学習への意欲も薄れていく。離職者が出なくても、組織の中では静かに活力が失われていきます。
このように、離職率が低いからといってエンゲージメントが高いとは限りません。むしろ転職活動の難易度が上がり市場が硬直する時期ほど、静かな退職は発生しやすく、また両者の違いは見えにくくなります。
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