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離職率低下は「定着」か、それとも社員の“諦め”か──「人が辞めない会社」が見逃しがちなリスクとは?(1/4 ページ)

人が辞めないことは、企業にとって歓迎すべきことなのか──。米国で進む人々が会社を辞めない「ビッグステイ」現象を通して、日本のITエンジニア市場で起きている変化を読み解きます。

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著者:芦野成則

レバテック株式会社 リクルーティングアドバイザー

一橋大学を卒業後、官公庁に5年半勤務し、2019年にレバレジーズに中途入社。企業の採用支援を行うリクルーティングアドバイザーとして、多角的な視点から採用支援を実施

 米国の雇用市場でここ数年「ビッグステイ」(Big Stay)という言葉が注目されています。コロナ禍での「大退職時代」(Great Resignation)の反動で、労働者が転職せず、現在の会社にとどまるようになった現象を指す言葉です。

 米労働統計局(BLS)の調査では、この1年間の自発的な離職率が1.9〜2.0%と低水準で推移しており、転職による賃金上昇の勢いも鈍化しているとされています。こうした変化を受け「転職するより今の会社に残る方が合理的になった」と説明されることもあります。

 では、日本のITエンジニア市場でもビッグステイが起きているのでしょうか。実は、ビッグステイという言葉から日本のITエンジニア採用市場を見ると、企業が見落としやすいある変化が浮かび上がります。この変化は、採用戦略だけでなく、社員の定着や組織づくりにも影響を及ぼします。米国のビッグステイとの違いを整理しながら、日本のITエンジニア市場で起きている変化を読み解きます。

「ビッグステイ」は日本でも起きているのか?

 米国の雇用動態調査によると、大退職時代のピークだった2022年には、自発的離職者数が年間5000万人を超えました。2025年には約3800万人となり、わずか3年で約25%減少したことになります。つまり、米国の労働市場の流動性は著しく低下しているのです。

 一方で、日本のデータを見ると「転職したい人が減っている」とは言いにくい状況です。

 総務省が発表した労働力調査では、2025年の平均の転職者数は330万人でした。前年(331万人)からの減少幅はわずか約0.3%です。転職等希望者数は1023万人となり、前年(1000万人)から23万人増えています。

 転職等希望者数と転職者数を差し引いて「約700万人が転職できずに残っている」とは単純に言えないものの「転職したい人は増えているのに、実際に転職した人は増えていない」という方向性は見て取れます。


日本の転職者数と転職希望者数の推移(出所:総務省「労働力調査」2025年(令和7年)平均結果の要約)

 ITエンジニアに絞っても同様です。レバテックの調査では、2026年6月時点におけるIT人材の転職希望者数は前年同月から146%増加しています。別の調査では、AIの影響を受けて、20代のITエンジニアの約半数が転職を意識していることが分かりました。


20代のITエンジニアの約半数が転職を意識している(出所:レバテック)

 一方、企業の採用に目を向けると、IT人材不足は今も続いています。

 情報処理推進機構(IPA)が発表した「DX動向2025」では、日本企業の85.1%が「DX推進人材の不足を感じている」と回答。AI、データ、クラウド、セキュリティ、PM、ITコンサルなど、採用需要が強い領域も少なくありません。

 これらの結果から、日本では、転職そのものへの関心が薄れたわけではないことが分かります。転職したい人と企業が採用したい人の間にズレが生まれているのです。

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