アシックスはいかにして復活したか──「箱根駅伝着用ゼロ」の屈辱から売上高1兆円を叩き出した「選択と集中」(3/6 ページ)
箱根駅伝でのシューズ着用率0%という屈辱から、初の「売上高1兆円」を目前にするアシックス。ナイキの厚底旋風による歴史的敗北からいかにして立ち直ったのか。廣田康人会長CEOの直轄プロジェクト「C-PROJECT」による最速シューズ開発や、野球用具・体操着からの撤退といった「集中と選択」、オニツカタイガーのラグジュアリー化など、日本発グローバルブランドとして復活を果たしたアシックスの勝因に迫る。
一部屋に若手を集めた「 C-PROJECT」 頂上奪還への電撃戦
箱根駅伝「着用率ゼロ」に先立つ2019年冬、すでに情勢を察知していた廣田氏は、起死回生の一手を打っていた。それが「C-PROJECT」の発足だ。「C」とは、創業者の鬼塚喜八郎氏がかつて唱えた「頂上(Chojo)作戦」の頭文字から取った。文字通り、業界の頂点を奪還するための電撃プロジェクトである。
従来のシューズ開発のプロセスは、デザインを起こし、開発部門が設計し、試作品を作り、選手に履いてもらってフィードバックを得るという整然としたバトンリレー方式だった。しかし、廣田氏はそのルールを変えた。
「そんな悠長なバトンリレーをやっている時間はない。デザインも、開発も、マーケティングも、知財(IP)の担当者も、全員この部屋に集まってほしい」
廣田氏は本社内にある一部屋に、各部門から集めた気鋭の若手エースたちを集めた。部門の壁を取り払い、全員が膝を突き合わせて即断即決で仕様を決め、その場でプロトタイプを試作する高速な開発体制を構築。「世界で一番速く走れるシューズを、どこよりも早く作ってくれ」という厳命を下した。
このC-PROJECTから生み出されたメタスピードシリーズは、奇しくもコロナ禍で1年延期となった2021年の東京オリンピックにギリギリで滑り込んだ。男子・女子のトライアスロン競技において、メタスピードシリーズを履いた選手が男女ともに金メダルを獲得。「アシックスの靴を履けば勝てる」という評判は、世界のアスリートたちの間を駆け巡った。
「いったんプラスの方向に進みだすと、箱根駅伝での装着率も上向き、社員の自信にもつながりました」。箱根駅伝での着用率は翌年から急回復し、2026年大会では 28.6%(全メーカー中2位)まで伸長。60人のランナーが履いたという。首位アディダス(35.7%)、2位アシックス(28.6%)、3位ナイキ(16.2%)という「三つ巴」の激戦構造を形成し、廣田氏は「世界市場では、この三つ巴争いはしばらく続きます」と読んでいる。
「頂上を取れば、その下にも好影響を及ぼします。トップランナーが履いて勝つ姿を見せれば、一般のランナーも『やっぱりアシックスがいい』と選んでくれるようになるんです」
事実、2025年の神戸マラソンでは全ランナーの42%がアシックスを着用。東京マラソンでも34%のランナーが、アシックスのシューズを履いた。トップアスリートでの勝利が、一般市場での購買を生む好循環が復活した瞬間だった。
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