「月90時間残業」「ミスで数千万円規模の被害」 建設現場を悩ます「工事写真の整理」はAIで解決できるのか(1/3 ページ)
「工事写真は手作業が当たり前」。長年放置されてきた月90時間もの泥臭い写真整理業務を、大幅に時間短縮したプロダクトがある。建設業界の不条理に挑んだ元・現場監督の取り組みを取材した。
深夜、工事現場のプレハブ事務所に電気がついている――。
現場監督が一人、PCに向かって作業をしている。画面上に並ぶのは、日中に撮影した現場写真の数々。どれがどの工程で、どの部分の撮影なのか、1枚ずつ確認しながらフォルダへと振り分け、Excelの台帳に貼り付けて工事名を打ち込む作業が淡々と続く。全国の工事現場で長年繰り広げられてきた光景だ。
これは、日本の社会インフラや生活を陰で支える建設・プラント業界の「工事写真台帳の作成業務」の様子だ。工事写真とは、発注者が仕様書に指示した工程通りに正しく施工されていることを証明するための資料で、その整理と製本を現場監督が担う。一つの現場で撮影される写真は数万枚。この一連の整理・台帳化作業には、実に90時間以上もの時間が費やされているという。
アルバイトに任せたり外注したりといったことはできない。なぜなら、工事現場はセキュリティが厳しいことに加え、何百もの工程を熟知していなければ写真を整理できないからだ。
現場監督にしかできない属人的な作業であり、これまで多くの現場で「仕方がない負担」として見過ごされてきた。
この構造的な課題に挑むのが、自らもゴミ焼却プラントの現場監督を務めた経験を持つ、verbal and dialogue(バーバルアンドダイアローグ)代表取締役の森川善基氏だ。
DXが進むなかで、なぜこの負荷のかかる業務は長年放置されてきたのか――。プラント・建設現場が抱える根深い構造的課題と、業務改革の糸口について森川氏に話を聞いた。
年々厳しくなる規制、続く深夜残業──「気が遠くなるほど泥臭い」
「日中は現場巡回や安全管理、何社もの協力会社との打ち合わせに追われます。そのため、工事写真台帳業務には、定時を過ぎてから取り組んでいました」
新卒で三菱電機に入社し自動車部品の設計開発に携わった森川氏は、その後、タイヤメーカーの日本グッドイヤー(東京都港区)での大型工場立ち上げプロジェクトを経て、ゴミ焼却プラントの設計・建設を手掛ける虹技(兵庫県姫路市)へ転職した。入社7〜8カ月後には、現場監督として働いていたという。
ゴミ焼却場の建設は、工期約3年におよぶ大きなプロジェクトだ。後半の施工期間には最大5000人もの作業員が入り、協力会社も40〜50社が集中する。現場監督は日中、広大な現場を巡回しながら事故を防ぐための安全業務や打ち合わせを同時進行でこなす。
午後5時の定時を過ぎて各社の職人たちが帰路に就いた後、現場監督が一人、プレハブ事務所に残って取り組むのが「工事写真台帳の作成」だ。
工事写真とは、仕様書の通りに施工が進んでいるかを証明するための法的な証拠資料(エビデンス)である。特にコンクリートで覆われてしまう鉄筋施工などは、施工不正を防止し建築物の安全性を担保するための確実な証跡として、写真撮影と台帳作成が法令で厳格に義務付けられている。「コンクリートを流し込む前の、設計書通りに正しく施工されている状態」を写真で何カ所も克明に記録する必要があり、年々規制が厳しくなっているのが現状だ。
また、一つの現場で撮影される写真は2万〜3万枚、フォルダの数は数百にも上るのだという。
「気が遠くなるほど泥臭く、面倒な作業なんです。まず日中に撮影した膨大な数の写真をPCに取り込み、工程ごとに判別してフォルダへ仕分けます。同時に撮り忘れがないかも入念にチェック。そこからメモや工程リストを確認し、Excelの台帳に画像を1枚ずつ貼り付け、工事名や作業内容を打ち込んでいきます。1点修正しようとすると順番や様式がずれてやり直しが発生し、発注者から追加や修正指示があれば再度編集することになります。私が現場にいた当時は、連日深夜0時を過ぎる残業や徹夜作業が当たり前でした」(森川氏)
月間の作業時間は90時間以上。しかし、建設業界では「工事写真業務は手作業でやるのが当たり前」として、長年課題として認識されてこなかった。
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