好業績なのに“上場廃止” なぜネットワンはSCSKとの「攻めの統合」に賭けたのか
業績絶好調の独立系インフラベンダー・ネットワンシステムズが、自ら上場を廃止しSCSK傘下に入る「攻めの統合」を決断した。身売りではなく、自らの手で次世代IT企業へと進化するための戦略的ディールだ。インフラ(NI)とアプリ(SI)の壁を壊しワンストップ化を目指す両社。文化の異なる大企業同士がいかに融合し事業領域を拡大するのか。最先端拠点「netone valley」で田中拓也COOに直撃した。
「AI格差」を乗り越え自走する現場をつくる「変わる情シス 2026 夏」
業績好調の独立系インフラベンダーでありながら、あえて自ら「上場企業」の看板を捨て、大企業の懐へと飛び込んだ──。
日本のインターネット黎明期からネットワーク構築をけん引し、高度な技術力によって大規模自治体や大企業のシステムを支え続けてきたネットワンシステムズ。2024年、同社が、住友商事グループのシステムインテグレーター(SIer)であるSCSKの子会社となり、業界に大きな驚きを与えた。
この前代未聞のディール(取引)は、経営不振による身売りではなく、自らの手で将来の成長を描くために仕掛けた「極めて戦略的な攻めの統合」だった。
売上高約2000億〜3000億円規模だったネットワンシステムズと、売上高約5000億円規模(ネットワンシステムズ統合前)を誇るSCSK。この2社は、いかにして一つの巨大な「次世代IT企業」へと生まれ変わろうとしているのか。
2027年4月の完全統合に向け、ネットワンシステムズは独立系ネットワークインテグレーター(NIer、企業の通信ネットワークシステムの企画、設計、構築から運用・保守までを総合的に請け負う)としての歴史に区切りをつけ、新たな成長フェーズへと踏み出そうとしている。
同社のイノベーション創出拠点「netone valley」(ネットワン バレー、東京都品川区)で指揮を執る取締役 執行役員 COOの田中拓也氏を取材した。SCSKとの統合の「真の狙い」とは? 「攻めのPMI(組織統合)戦略」と、次世代リーダーにバトンを託す経営者の覚悟に迫った。
田中拓也(たなか・たくや) ネットワンシステムズ株式会社 取締役 執行役員 COO。1992年日本ユニシス(現BIPROGY)入社。日本シスコシステムズ(現シスコシステムズ合同会社)西日本営業本部長などを経て、2009年ネットワンシステムズ入社。ネットワンシステムズ執行役員、傘下のネットワンパートナーズ代表取締役社長などを経て、2024年より現職(以下クレジットのない写真はMM総研撮影)
なぜ好業績下でSCSKとの「統合」を決断したのか?
ネットワンシステムズは、売上高約2000億〜3000億円規模を誇る独立系NIerの雄だ。一方のSCSKは、売上高約5000億円規模(ネットワンシステムズ統合前)を誇る住友商事系のSIer。従来、IT業界では「インフラ構築のNI」と「アプリ開発のSI」ですみ分けがなされていたが、インフラからアプリまでを一括提供する「ワンストップ化」を狙い、両社は手を組んだ経緯がある。
ネットワンシステムズは近年、業績面で好調を維持してきた。それにもかかわらず、なぜSCSKとの統合を選択したのか。田中COOはその背景について、事業シナジーを挙げる。
業績が悪化した末の身売りではなく、業績が良いタイミングだからこそ、自らの意思で最適なパートナーを選ぶべきだと考えたという。
「複数の選択肢を検討しましたが、当社のネットワーク事業と領域が被らず、かつアプリケーション開発に強みを持つSCSKとの統合は、非常にパズルのピースが合うと感じました。実際、統合を発表した際は、業界関係者から『あっぱれ』というメールをもらったほどです」
統合プロセス(PMI)は、現在も段階的に進めている。2026年4月には、両社のディストリビューション(パートナー企業向け製品販売)事業を先行して合流させた。ここで特徴的なのは、ネットワングループ側の組織の箱に、SCSK側からほぼ同数(数百人)が合流した点だ。買収元に飲み込まれるどころか「対等な関係での統合」を体現している。
異なる生い立ちを持つ企業同士の異文化融合
しかし、歴史が異なる大企業同士の統合は容易ではない。SCSKとネットワンシステムズの文化の違いについて問うと、田中COOは苦笑しながらこう答えた。
「異なる生い立ちの企業ですから文化は違いますよ。外部の人からは、SCSKが規律正しくスマートな『公家』だとすれば、ネットワンシステムズは現場で泥臭くやってきた『野武士』と言われたこともあります(笑)。ただ、最上段に位置する両社の経営理念・パーパス自体の親和性は非常に高く、この文化の違いこそが統合ではプラスに働くと考えています。彼らにとっても、われわれのような異なる血が入ることは大きな刺激になるはずです」
そして、統合を真に成功させるための鍵は”世代交代”にあると言い切る。
「われわれの世代から次の世代へと経営のバトンを渡さなければ、真の組織統合はできません。なので、実は統合のプランニングや実行については、次世代のリーダーたちに任せています。数年後に『この人はどこの会社の出身だ』といった会話が社内から消えたとしたら、その時が、統合が成功した証だと思っています」
今回訪れたnetone valleyは、東京都品川区に位置する巨大なイノベーションセンターだ。東京モノレール「大井競馬場前駅」から徒歩わずか2分という立地にあり、駅の改札を出て陸橋を渡ると、ほどなくして「グランロジテラス品川」の建物が見えてくる。2階に設けられたメインエントランスから5階へ上がると、木調が映える内装と間接照明が特徴的な受付とフリースペースエリアが広がっていた。
「ここは、単なる執務室ではなく、異業種の企業やエンジニアが集い、オープンイノベーションを起こす欧米の最新インキュベーション施設をモデルにしています。壁をなくしたオープンな空間で自由にアイデアを戦わせ、日本を元気に切り拓く拠点にしたいという強い思いを込めました」
出迎えてくれた田中COOは、そう切り出した。
施設内には最新機器を検証するラボラトリーやロジスティクス機能も備えており、単なるオフィスを超えた価値創出の場として機能させようとしている。
アプリとインフラの融合がもたらす「自治体DX」の深化
事業面において、両社の統合が最も大きなインパクトをもたらす領域の一つが、自治体を中心としたパブリック領域だ。ネットワンシステムズは、都道府県や中核市などのネットワークインフラ構築において圧倒的な実績を持ち、特定のコンペティションでは非常に高い落札率を誇るという。
「しかし、当社にはこれまでアプリケーションに関する提案力が欠けていました。そのため、お客さまは『ネットワークインフラはネットワンシステムズ、アプリは他社』と分けて発注せざるを得なかった状況がありました。SCSKは金融向けのマネーロンダリング対策や医療向けソリューションなど、強固なアプリケーション基盤を持っています。これを自治体向けに横展開できれば『ネットワンシステムズに頼めば、基盤からアプリまで全て任せられる』という状態を作り出せます」
また、自治体や企業が直面するサイバーセキュリティの脅威に対しても、提供価値を高めている。
「ランサムウェア被害にあった際、一次被害の全容すら説明できない企業が少なくありません。われわれは、被害範囲の特定からレポートの作成支援、そしてシステム復旧まで、お客さまの事業継続にコミットする体制を構築しています。ここまで踏み込める企業は他にないと自負しています」
AI投資のリアルと、リーダーに求められる「仮説」
生成AIを中心とする最新技術の活用と、ビジネスモデルの変革についても話を向けた。インフラ構築を主業としてきた同社にとって、AIによる自動化の波はどのような影響をもたらすのか。
「社内業務やワークフローへのAI活用は当然進めていますが、経営層がよく口にする『AI導入のROI(投資対効果)を出せ』という議論には、疑問を感じています。現段階で明確な数字は出ないのが現実です。しかし『投資効果が見えないからやめる』のではなく『やり続けなければ効果は出ない』と割り切って投資を継続することが、重要だと考えています」
同社が描くのは、技術の「ハイブリッド化」による収益力の極大化だ。熟練エンジニアの高度な手腕が求められるネットワーク設計・構築においては、その専門的価値を前面に出す。一方で、定型的なネットワークの運用・保守領域にはAIや自動化技術を徹底投入して品質を高めつつ、コストを削ぎ落とし、利益率を上げる二段構えの戦略をとる。
リーダーとしての信念を問うと、田中COOは力強く語った。
「社員が挑戦することを認め、自らは仮説を立てて『方向はこっちだ!』と大声で叫ぶことです。SCSKとの統合という新たな環境においても、私は社員たちに『堂々と仕事をしてきなさい』と伝えています」
以上が田中COOへのインタビュー内容だ。「数年後に『あの人はどこの会社の出身だ』という会話が社内から消えたとしたら、その時こそが、統合が成功した証だと思っています」──。
旧世代がいつか退くときを見据え、次世代のリーダーたちにPMIを委ねる覚悟を決めた田中COO。“独立系インフラベンダー”の誇りを胸に、SCSKという巨大な組織へと飛び込んだ同社の挑戦は、文化の異なるM&Aに悩む多くの日本企業にとって、極めて重要な処方箋となるはずだ。
著者情報:長尾太地(ながお・たいち)
2023年MM総研入社。PC・サーバ・通信機器をはじめとするITインフラ機器の市場動向および運用管理など周辺ビジネスの調査・分析を担当。併せて、GIGAスクール構想をはじめとする教育DX領域、法人市場におけるAI・ソフトウェア利活用といった最新トレンドの研究・発信を幅広く手掛けている。
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