なぜ、100年続く問屋がいま“急成長”? 4年で売上5割増、welzo社長に聞く「多少の無駄」を許す組織改革(1/3 ページ)
ホームセンター市場の縮小や農家の減少という逆風の中、100年企業のwelzoは売上高を325億円から501億円へと4年で5割以上も急伸させた。2020年に就任した金尾佳文社長のもとで、挑戦を促す風土をどう根付かせたのか。100年企業の知られざる組織改革の舞台裏に迫る。
相見積もりで1円単位で価格を買い叩かれ、競合と「帳合」(ちょうあい、取引枠のこと)を奪い合い、週末は取引先小売店の売り場づくりに応援の人手を駆り出される──。
長年、消費者の目に触れない裏方として、過酷な価格競争に甘んじてきた老舗問屋が、自らその殻を破り捨てた。1921年に創業した肥料・園芸資材卸のニチリウ永瀬は2023年、100年間以上親しまれた社名を捨てwelzo(ウェルゾ、福岡市)へと改称した。
ホームセンター市場の縮小や農家の減少という逆風の中、2020年に就任した金尾佳文社長のもとで、同社は売上高を325億円から501億円へと4年で5割以上も急伸させた。年平均で約11%の成長になる。
「会社が変わるためなら、多少の無駄が出てもいい」──。金尾社長はそう言い切る。社内のベテランが抱え込んでいた暗黙知を共有化させ、挑戦を促す風土をどう根付かせたのか。100年企業の知られざる組織改革の舞台裏に迫る。
金尾佳文(かなお・よしふみ)横浜国立大学工学部卒業後、1987年4月伊藤萬(現日鉄物産)入社。2006年ニチリウ(現welzo)に鹿児島営業所長として入社。2007年10月関連会社で用土肥料メーカーのエンゼル(現サンアンドホープ関西工場)に異動。2016年3月サンアンドホープ取締役、2017年5月代表取締役専務、同年7月専務兼ニチリウ永瀬営業本部長補佐、2018年1月ニチリウ永瀬営業本部長、同年4月同専務取締役営業本部長、2019年4月副社長を経て、2020年4月に社長就任。鹿児島市出身。1964年生まれ(筆者撮影)
「帳合」を取った、取られた 価格競争に巻き込まれてきた問屋業の限界
――1921年の創業以来、肥料原料や園芸資材をホームセンターや農家、肥料メーカーに納める卸売業を100年以上続けてきました。100年以上続く社名を、なぜ変える必要があったのでしょうか。
当社には100年を超える歴史がありますが、問屋業という殻の中から出ることができませんでした。「旧来のビジネスモデルでも成り立つ時代だった」というのが正しい言い方です。
当社の顧客は、園芸分野ではホームセンターや園芸店といった小売店で、農業分野では農家です。肥料原料は、肥料メーカーに納めて終わりでした。当社の前身であるニチリウ永瀬は合併を重ねてできた会社ですが、その社名を一般の方が知っているかといえば、そうではありません。当社は消費者の目に触れない問屋として、裏方で仕事をしてきた会社なのです。
問屋業は、小売店に商品を納める立場です。小売店に対してさまざまな問屋が売り込む中で、売り場づくりの応援など、人手まで出してきました。一方で相見積もりを取られ、価格を叩き合う世界でもあります。この業界では「帳合」という言葉が普通に使われています。小売店などへ納入する取引ルートのことで、帳合を取った、取られたと言います。結局のところ、価格競争に全て巻き込まれてきたわけです。
市場も縮んでいます。少子高齢化と地方の過疎化によってホームセンターが苦労しており、その縮小とともに当社も縮小していく、という危機感がありました。農業に目を移しても、農家の高齢化が進み、農業に就く人は減る一方です。
では、当社の本来の目的は何なのか。農家が一番必要としているのは、楽しく付き合ってくれる相手や、気に入ってくれる業者ではありません。しっかり儲(もう)かる仕組みです。ホームセンターの顧客には、喜ばれる商品を作らなければなりません。この視点を忘れずに事業を運営することを前社長に申し入れ、私は社長を引き受けました。
創業100年を機に社名を消す 末端では「誰も知らない会社」が描いた夢
――社名を変える判断は、どのように決めたのでしょうか。
社名の変更は、社長に就く前から決めていました。問屋業にとどまらず、将来も農園芸で食べていける会社に生まれ変わるには、CI(コーポレートアイデンティティー。企業理念やロゴ、社名などを一貫させる取り組み)で、一気に変えるしかないと周囲にも伝えていました。
社長に就いたのは創業100周年の直前で、実際に動き出したのは100周年を迎えてからの2〜3年です。節目は会社が変わる好機だと考え、パーパス(存在意義)やビジョン、バリューを定めて、当社がどこを目指すのかを示しました。
ビジョンの下地になったのは、以前に社内の同年代のメンバーと受けた研修です。国内市場が縮む以上、海外に出て農業と園芸を手掛ける会社にならなければいけません。そこまでは話し合えていたものの、どう実現するかという道筋はありませんでした。社長になったからには、そのとき描いた姿を実現したい。その第一歩として、社名から変えることにしたのです。
目指しているのは、世界でも名前が通る会社として表舞台に立ち、この分野なら当社に聞けと言われるようになることです。合併を重ねてできた「ニチリウ永瀬」の社名のままでは、そうした姿を打ち出せません。「welzo」という新しい社名に思いを込め、農園芸でイノベーションを起こす会社を目指して、今に至っています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
「人工雷」で肥料を生み、キュウリでAIを育てる 福岡の100年商社「welzo」が挑む農業DX
熟練農家の高齢化と肥料の輸入依存という日本の食料安保問題に、創業100年の農芸商社welzoが挑む。同社は九州大学と連携し、水と空気から「人工雷」で肥料を自給する技術を開発。生長の早いキュウリ栽培を通じ、熟練農家の「勘と経験」をAIでコード化した。新規就農者が1年目から手堅く稼げる低価格な自動制御システムを確立し、日本の農業構造を底上げしながら世界市場への進出を狙う。
ソニー平井元CEOが語る「リーダーの心得5カ条」 若くして昇進した人は要注意
ソニーグループを再生させた平井一夫元社長兼CEOが自ら実践し、体験を通じて会得したビジネスリーダーに必要な要件とは?
なぜ快活CLUBの客がスーツを買う? AOKIHDが業界首位に躍り出た「4500万人データ」と多角化の秘密
AOKIホールディングスは2026年3月期、連結売上高で青山商事を初めて上回り業界首位となった。勝因は30年前から推進する多角化(非アパレル比率47%)と、4500万人分の統合顧客データだ。「快活CLUB」で獲得した10代の顧客を、18歳時点での「AOKI」のスーツ購入へと相互送客する仕組みを構築。「FiT24」や「アニヴェルセル」など「コト」と「モノ」を掛け合わせる新時代のデータ経営に迫る。
年間10万件の「顧客の声」を発注会議に直結 AOKIが競合視察で掴んだ「VOC経営」の凄み
スーツ市場が10年で半減する中、AOKIの小出大二朗社長は「メンズビジネス4割、メンズカジュアル3割、レディース3割」という目標を掲げる。重衣料で培った高度な裁断・縫製技術をパジャマスーツへ応用し、店舗の接客力と組み合わせて競合と差別化。さらにファーストリテイリング視察を契機に導入した年間10万件の「VOC」(顧客の声)を定量分析し、発注会議や在庫の最適化に直結させるアパレル再生の舞台裏を追う。
AOKIHD副社長に聞く「チェーンビジネスの要点」 地域に最適化した「カセット型DX」とは?
AOKIホールディングスはファッション、エンターテインメント、ブライダルと3業種にわたるチェーンビジネスを続ける中、いかにして多業種多店舗経営と標準化を実現しているのか。照井則男副社長に聞いた。
トップでも先陣は切らない AOKIHD副社長に聞く「快活CLUB独り勝ち」の真相
快活CLUBの独り勝ちが止まらない。なぜ、ここまでの快進撃が続いているのか。AOKIホールディングスの照井則男副社長に聞いた。
