年間10万件の「顧客の声」を発注会議に直結 AOKIが競合視察で掴んだ「VOC経営」の凄み(1/4 ページ)
スーツ市場が10年で半減する中、AOKIの小出大二朗社長は「メンズビジネス4割、メンズカジュアル3割、レディース3割」という目標を掲げる。重衣料で培った高度な裁断・縫製技術をパジャマスーツへ応用し、店舗の接客力と組み合わせて競合と差別化。さらにファーストリテイリング視察を契機に導入した年間10万件の「VOC」(顧客の声)を定量分析し、発注会議や在庫の最適化に直結させるアパレル再生の舞台裏を追う。
紳士服大手のAOKIは6月、社長に小出大二朗氏が就任した。小出氏はアパレルメーカーや繊維商社の豊島を経て2022年にAOKIに入り、商品企画を担ってきた人物だ。
新体制のファッション事業は、商品売上高の構成比を「メンズビジネス4割、メンズカジュアル3割、レディース3割」とする目標を掲げている。メンズビジネスの売り上げ規模を保ちながら、カジュアルとレディースを伸ばす。2026年3月期は、ビジネス衣料の売り上げが前年比2.3%減だった一方、カジュアル衣料を14%伸ばした。
スーツ離れは業界全体の課題だ。競合の青山商事が公表するメンズスーツの販売着数は、2016年3月期の222万着から2026年3月期には95万着へと、10年で半減した。オーダースーツの人気によって平均販売単価は上がったものの、着数の減少を補えていない。
スーツの需要が縮む中、AOKIは何を武器に、カジュアルやレディースを拡大していくのか。その答えとして、同社はファーストリテイリングの視察を機に本格化させた年間10万件に及ぶ「VOC」(Voice of Customer、顧客の声)のデータ分析を挙げる。
数値化しにくい顧客の生の声を、発注会議や在庫最適化に直結させる同社の「技術×接客×顧客データ」の処方箋とは? 【なぜ快活CLUBの客がスーツを買う? AOKIHDが業界首位に躍り出た「4500万人データ」と多角化の秘密】に引き続き、AOKIホールディングスの青木彰宏会長、AOKIの小出大二朗社長、立川延之専務に聞いた。
晴れ着化するスーツ カジュアルブランドとの差別化は?
――AOKIは創業から70年近い歴史のあるブランドですが、最近はスーツを着る人自体が減っています。近年は、カジュアルブランドもスーツを手掛けるようになり、多くの競合が参入しています。この状況をどう捉えていますか。
小出: スーツが晴れ着化、つまり特別な場で着る服になりつつあるのは事実です。働き方の変化や着こなしの自由化によって、スーツからセットアップへ、当社のパジャマスーツのような商品へと需要が移っています。パジャマスーツとは、パジャマのような着心地を目指した、当社のビジネスウェアブランド「AOKI」のセットアップです。
私はずっとものづくりに関わってきましたが、重衣料であるスーツを作る技術をキャッチアップするのは、そう簡単ではありません。工程が非常に多く、着心地をどこまで追求できるかを左右するパターンメーキングや縫製仕様など、長く培ってきた技術が必要になります。当社は、その技術を、カジュアルやレディースの提案にどう生かすかを強化しています。
パジャマスーツは、カジュアルで簡易的なセットアップに思われがちです。しかし実は、服が非常に立体的に作られています。しわになりにくく着心地が良いだけでなく、見た目にも立体感があります。これは、スーツを作ってきた会社でなければできない技術です。私は外部から当社に来た人間ですが、そのことを強く実感しています。
この技術をカジュアルやレディースに生かせれば、カジュアルブランドとの差別化は十分にできます。加えて、接客という人の力も大きな強みです。モノと人の両輪はまさにAOKIの強みであり、そこにどう磨きをかけるかがこれからの私の任務です。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
なぜ快活CLUBの客がスーツを買う? AOKIHDが業界首位に躍り出た「4500万人データ」と多角化の秘密
AOKIホールディングスは2026年3月期、連結売上高で青山商事を初めて上回り業界首位となった。勝因は30年前から推進する多角化(非アパレル比率47%)と、4500万人分の統合顧客データだ。「快活CLUB」で獲得した10代の顧客を、18歳時点での「AOKI」のスーツ購入へと相互送客する仕組みを構築。「FiT24」や「アニヴェルセル」など「コト」と「モノ」を掛け合わせる新時代のデータ経営に迫る。
AOKIHD副社長に聞く「チェーンビジネスの要点」 地域に最適化した「カセット型DX」とは?
AOKIホールディングスはファッション、エンターテインメント、ブライダルと3業種にわたるチェーンビジネスを続ける中、いかにして多業種多店舗経営と標準化を実現しているのか。照井則男副社長に聞いた。
トップでも先陣は切らない AOKIHD副社長に聞く「快活CLUB独り勝ち」の真相
快活CLUBの独り勝ちが止まらない。なぜ、ここまでの快進撃が続いているのか。AOKIホールディングスの照井則男副社長に聞いた。
「AOKI→快活CLUB」で人材が往来!? AOKIグループを支えるDXに迫る
AOKIホールディングスは、グループ内の人材を業種横断的に活用できる体制を整備している。この基盤を支えているのがDXだ。3業種にわたる人事交流をITによって、いかにして実現しているのか。
「年間決済600万円」でも客は離れない ANAアメックス“強気な値上げ”に隠された富裕層囲い込みの勝算
ANAとアメックスが17年ぶりに提携カードを全面刷新し、最大24万マイル超の異次元還元キャンペーンを打ち出した。一方で、年会費の大幅引き上げに加え、ボーナスマイル獲得には「年間400万〜600万円以上」という高い決済ハードルを設定。円安・物価高の逆風下で、両社はなぜあえて“顧客を選別”するハイエンド路線へ舵を切ったのか。調査データから浮き彫りになった富裕層の旺盛な旅行熱と、プライシング戦略に迫る。
預金3000万円でプラチナカード無料 三菱UFJ「50兆円の富裕層囲い込み」に透ける焦り
三菱UFJ銀行が預かり資産3000万円以上の顧客を対象に、年会費無料のプラチナカードを提供する新会員組織を発表した。対象は顧客の2%ながら、個人預金の半分にあたる50兆円を占める層だ。「金利のある世界」の復活で預金の収益性が高まる中、一見攻めに見える大盤振る舞いの真の狙いは、親の世代交代に伴いネット銀行へ流れ出す「50兆円の相続流出」の防衛だ。メガバンク首位が仕掛けるLTV重視の防衛戦略の裏側に迫る。
年会費16万5000円を「据え置いた」AMEX プラチナが売る"体験"の裏に「年500万円」の顧客選別
アメリカン・エキスプレスは、「プラチナ・カード」の年会費16万5000円を据え置き、特典を刷新した。競合の「安いプラチナ」が乱立する中、本家は価格競争を拒み、「体験の総量」で勝負を仕掛ける。しかし華やかな拡充の裏には、旅行保険の自動付帯廃止や、最大特典の獲得に「年500万円の決済」を義務付ける防衛線が潜む。高額利用層だけを絞り込む「顧客選別」とは――。
ANAは座席指定不可、JALは変動制マイルへ 苦境の国内線“値上げとサービス制限”の真相
ANAは大胆な運賃体系の変更に踏み切り、JALは顧客への寄り添いを重視する戦略を取っている。目前に迫る「史上空前の燃料高騰」が浮き彫りにした国内線ビジネスの限界とは? “運賃値上げ”を見据えた両社の生存戦略を分析する。
会員数「1億人超え」 欧州最大ホテルチェーンが日本で仕掛ける“脱中国人依存”の戦略
欧州最大のホテルグループである仏アコーが、日本をアジアの最重要市場と位置付け、積極的にビジネスを展開している。2028年には最高級ブランド「ラッフルズ東京」が上陸するなど、攻めの姿勢を崩さない。日本事業を統括するアコージャパンのディーン・ダニエルズ社長に、日本市場戦略の展望を聞いた。

