残念ながら日本におけるモータースポーツの認知度は、そんなに高くないようです。
のっけから辛気臭いスタートとなりました今回のコラムですが、事実なので仕方ありません。F1日本グランプリともなれば、まっすぐ歩けないくらいに人・ヒト・ひとで沸き返るサーキットですが(実話!! 私、過去3年ずっと鈴鹿に行っていますが、トイレ30分待ち!! と連休のディズニーランドよりもひどい有様です)、国内レースに関してはそれほど一般的に浸透していないよう。
モータースポーツをこよなく愛する私としては、残念かつ寂しいところです。
しかし、そんな悲しい日本のレースシーンにおいて、昨年の総観客動員数およそ58万人を誇り、今も着実に来場者数を増やしつつあるシリーズが開催されていることをご存知でしょうか?
それが「スーパーGT」。
市販車をベースに極限まで改造したマシンが500クラスと300クラスで混走する、エキサイティングなレースです。
この500、300というのは「馬力」で、500クラスで最高速約300キロ、300クラスで約270キロ(!!)。
まさにモンスターマシンの夢の饗宴!
代表的な特徴としては、毎回同じ車両が優勝しないように、レースで上位になったマシンにはオモリを載せる「ウエイトハンディ制」を採用しているため、くるくるとランキングが入れ替わることで、観客にとっても実に先の読めないレースが最終戦まで展開されるわけです。
そのあまりの人気に海外からの誘致も多く、スーパーGTは国際シリーズ化されています。毎年行われているマレーシア・セパンサーキットラウンドではなんとF1を凌ぐ入場者数!!
そのスーパーGTが三度のメシよりも好きな私、先日行われた第5戦、宮城県は菅生ラウンドに行ってきました。
毎度のことながら、その「客入り」と「熱気」には圧倒されます。
派手なチームカラーのウエアをまとったコアなモータースポーツファンや、これまた熱気に拍車をかけるレースクイーン、そのレースクイーンのファンたちによって、ただでさえムシ暑いサーキットは温暖化に拍車をかけるよう!!(注:あくまでも心象風景です。実際にそんなことはありません・笑)
今回の菅生ラウンドにおいては、久々に面白いレース展開となりました。スタート直前に降り出した夕立のような雨によって一気に路面は濡れ、大混戦!! しかし、私が今回書きたいのは、この決勝リポートではありません。
決勝前に行われる、フリー走行と呼ばれる練習走行中に、事件は起こりました。
フリー走行が始まってすぐ、GT300クラスの車両が突如、炎上したのです。各車決勝に向けて、少しでもセッティングを出したいこのフリー走行。何台ものマシンが通過する中で、1台のマシンがコースワキにいち早くクルマを止め、消火器を持って炎上するマシンに駆け寄りました。
カーナンバー22番、MOTUL AUTECH Zをドライブする、ベテランドイツ人ドライバー、ミハエル・クルム選手でした。
マーシャルと呼ばれる、サーキットのコース整備員さえもまだ到着していないほどの早い対応に、私は目を疑いました。それがどれだけ危険な行為か、多分私よりもクルム選手自身がよく知っていたことでしょう。
フリー走行は先述の通り始まったばかり。
イコール、ガソリンも満タンで、炎上しているということはガソリンタンクに引火して、爆発する可能性もあるということ。しかも、GTカーにおいては、安全確保のために6点式のシートベルトを装着します。
スポーツ走行などで、一般車に装備されている3点式以上のシートベルトを着けたことのあるヒトならわかると思いますが、この6点式シートベルト、一旦外すと装着にとても時間がかかり、そのフリー走行の時間を無駄にしてしまう可能性だってあったわけです。
しかし彼はそんな危険より、自身の杞憂より、炎上するマシンに残されているかもしれないドライバーの救出に向かった。
幸いドライバーは自力で脱出しており、大事には至りませんでしたが、その行動に私は深い感動を覚えました。
「これを真の『モテ』といわずになんと言う?! ジェントルマン道ここにあり!!」
もちろん通過した車両が悪い、というのではありません。
「危険だからピットに帰って来い」と無線で連絡を受けた車両もいたことでしょう。しかしこの機転には大いに拍手を贈りたく思うのです。
クルム選手が所属するNISMO(NISSANのワークスチーム)は、エースに最高の待遇をするかわりに、非常に厳しいことでも知られています(軍隊とも表現されるほど!)。
その生き馬の目を抜くNISMOチームでなんと9年もの間、トップドライバーとして活躍するクルム選手。その速さの秘密、そしてトップに君臨し続ける理由の核心に、少しだけ触れた気がしました。
危機管理能力、そしてその危機が自分に迫らずとも行動に移せる視野の広さ。ある種の冷静さがなければ、なかなかできることではありません。
ほかのチームクルーからも、感嘆の声が上がったこの事件。
久しぶりにレース以外で、ステキなものを見させていただきました。
やっぱりね、運転技術も大事だけど、その運転技術の中には「余裕」も必要だと思ったの。
必死に運転だけしてちゃ見えないことが、たくさんある。
究極の「モテ・ドライビング」を、目の当たりにした週末でした。
そうそう、このミハエル・クルム選手、とっても日本語が堪能です。英語で通訳が話しかけたヒーローインタビューに対して、流暢に日本語で答えたほど。
奥様はテニスプレイヤーの伊達公子さんです。
今井優杏(イマイ ユウキ)
2006年にレースクイーンを引退し、レースを通じて知ったクルマの素晴らしさを伝えたい! とモータージャーナリストに転身。また、MCとしても、モータースポーツ関連イベントを中心に幅広く活動中。
愛車はFIAT・バルケッタ(赤)。ラテンのクルマを愛する情熱系。
クルマは所有も運転もJOIA(喜び)。もっと楽しみましょう!!
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