日本の貴重なデジタル化資料を公開している国立国会図書館デジタルコレクション(デジコレ)。本連載では、デジコレで見ることができるデジタル化資料の中からコレは! というものを探し出し、紹介していきます。
オレンジ文字さんは「エログロナンセンス」という言葉をご存じですか?
いまでいうサブカルチャーみたいなものかしら? 大正の終わりから昭和の初めごろに流行った文化よね。
そうですね、サブカルチャーは現代ではある程度の地位といいますか、認められているものだと思いますが、エログロナンセンスはもっと低俗な、退廃的な文化でした。
ナンセンスっていうぐらいだから好かれてはなさそうよね。
エログロナンセンスが生まれた時代は、震災や戦争で人々の心が不安定な時期でもありました。自由がなかったんですね。そうなると人は革命を起こそうとしたり、とにかく殻を破ろうとするわけです。
そこで登場するのがエロやグロ、そして新たな価値観としてのナンセンスという表現です。文学では、1920年代〜1930年半ばにかけて「プロレタリア文学」といものが流行りました。これは、個人主義を排し、社会主義的な思想と結びついた文学のことをいいます。『蟹工船』の小林多喜二や、『太陽のない街』徳永直などが有名ですね。文学の力による社会変革を目指しましたが、特別高等警察などによる弾圧で衰退していきました。
労働者たちによるストライキの話よね。
プロレタリア文学は知らなくても、『蟹工船』というタイトルだけは知ってるという人も多いでしょう。プロレタリア文学は革命や変革意識した文学でしたが、それゆえにその命はとても短いものでした。では次にエロを見てみましょう。実はデジコレには有名な作品があるんです。それがこちら。
……。
な、なんですかその目は。ちゃんとした作品ですよ、発禁されてますけど。デジコレで5カ月連続でアクセス数1位を記録したり、デジコレの資料を試験的に電子書籍にして配信した「文化庁 eBooks プロジェクト」でもダウンロード数で1位になっていますし!
エロの力ね……。
(言い返せない……。)さ、作者はエログロナンセンスの火付け役ともなった酒井潔。彼は秘薬や性愛などに関する研究をしていたことでも知られています。『エロエロ草紙』のほかにも『日本歓楽郷案内』『巴里上海歓楽郷案内』『異国風景浮世オン・パレード』『らぶ・ひるたァ:秘薬論』など、タイトルからして怪しい雰囲気の漂う本を出版していまして、これらの作品はデジコレで読めたりします。
発禁になるのも分かるわ……。ある意味ただのエロじゃないっていうのがくせものね。
『らぶ・ひるたァ:秘薬論』は特に刺激的な内容ですよね。何を真面目に書いているんだとツッコミたくなりますが、書いた本人はいたって真面目だったんでしょう、おそらく。
今回は新しい世界が垣間見えた気がするわ……。普段は目をそむけがちなエロ・グロ・ナンセンスというものに正面からぶつかると3つが混ざり合って、感性が刺激されるというか、これこそが本来人間が備えている美学というのかしら脳髄にまで浸透するような――
なんだかこのままではオレンジ文字さんが新たな扉を開いてしまいそうなので、今日はこの辺で終わりにしましょう。それでは、また次回!
(出典=国立国会図書館)
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