iPad/iPhoneアプリ開発の成功に必要なもの:iPad開発者会議リポート(後編)(3/3 ページ)
App Storeが“第2のゴールドラッシュ”というのは本当だろうか。「iPad Summit」リポートの後編では、実際にiPad/iPhoneアプリ開発で商業的な成功を手に入れたデベロッパーの視点を紹介していく。
ソーシャルゲームと広告、iPhone/iPadをどうビジネス化する?
今回の開発者会議リポートの最後では、いかにApp Storeを使ってビジネスを成立させていくのかという金銭的な部分が話のテーマだ。純粋な開発者にはあまり聞きたくない部分ではあるかもしれないが、前出の成功事例にみられるように、App Storeでのレベニューストリーム構築方法が非常に特殊なこともあり、「少ない利益でいかにビジネスを回していくか」が重要となる。
今回の会議でも大きく話題になったのが、いわゆる「ソーシャルゲーム」の存在だ。日本でのグリーやモバゲーの成功事例もそうだが、ミクシィの「サンシャイン牧場」の原型ともいわれる「Farmville」を開発した米Zyngaでは比較的景気のいい話が多い。まだ未公開企業のZyngaだが、米Googleが同社に1億ドル以上の投資を行ったことを米TechCrunchが7月10日(現地時間)に報じている。これはZyngaに投資を行った数ある投資家集団の1つという位置付けだったようだが、それだけソーシャルゲームにおける“マネタイズ(Monetize:お金を生み出す)”の仕組みに世間が注目しているからにほかならない。
Zyngaの場合はFacebookなどのソーシャルメディア向けのカジュアルアプリ開発がメインだが、今後こうしたブラウザゲーム、あるいはモバイル端末向けのゲームアプリをプラットフォーム化していこうというGoogle側の意図も汲み取れる。実際、AppleもiOS 4で「Game Center」と呼ばれるゲームを軸としたソーシャルメディアの仕組み構築を目指しており、次なるプラットフォーム企業の戦場となることが予想されるからだ。
では翻って、現状のApp Storeはどうだろうか? これに関して、ある参加者の1人が「現状でApp Store向けアプリの開発も行っているが、一方でFacebookの(ソーシャル)ゲーム開発にも興味がある。我々は開発リソースも少なく、あえて選ぶとすればどちらのプラットフォームに注力すればいいのか?」という質問を行った。
現状のAppleは開発ツールや環境を制限しており、マルチプラットフォーム開発が非常に行いにくい状況となっている。また前述のようにiPhone/iPadの操作体系は通常の携帯電話やPCゲームとは大きく異なるため、UIやゲームアイデアそのものをリフレッシュしなければいけない可能性が高い。これは非常に重要な問題だ。
モバイルペイメントシステム開発を行う米ZongのバイスプレジデントRichard Borenstein氏はこれについて、「iPhoneのほか、iPadの成長余地は高く、App Storeだけで稼いでいくことは十分に可能だろう。だが現時点でiPadにどれだけのゲームユーザーがいて、それでビジネスを構築できるかは不明な部分がある」とコメントしている。
iPhone向けマルチプレイヤーゲーム開発で知られる米Aurora Feintのマーケティング担当VPのEros Resmini氏は「有料アプリは10万ダウンロードあればビジネスとして成立する」と目安を紹介する。しかしその一方で、iPad自体はいまだ実験ステージにあり、これでビジネスを成立させられるかどうかは、最終的にどれだけの開発費やリソースを注入できるかで決まってくるだろうとも答えている。またソーシャルゲームの興隆についても「(一般的な)PCゲームとモバイルゲームは完全に異なるものであり、どちらがどちらを食うという話にはならない。あくまで可能性を広げるものの1つと考えている。マルチ開発は中小にとっては厳しいと思うが、一方で大手は動きが鈍くなる傾向にあり、そこにチャンスが生まれる」と述べており、フットワークの軽さやアイデア勝負が打開につながると指摘する。
ソーシャルゲームが注目を集める最大の理由としては、追加課金システム、いわゆる「アイテム課金」と呼ばれる仕組みにある。最初は無料でも、ゲームをやり込むにあたって必要なアイテムを有償で購入したほうが有利になるというものだ。
App Storeには機能アップグレードやこうしたアイテム課金のために、「In-App Purchase」という仕組みが用意されている。アナリストらによれば、こうしたIn-App Purchaseのようなバーチャルグッズ販売の金額は1人あたり平均12〜14ドル程度ということで、現在無料アプリに広告を入れるよりも割がいいという。
逆にいえば、ソーシャルゲームに無理して広告を入れるよりは、こうしたアイテム課金の仕組みを構築したほうが有利ともいえる。また現状でiPhoneよりもiPadのほうがアプリ自体の単価が高く、ダウンロード数は少なくても売上効率が高いため、どちらかといえばソーシャルゲームが得意とするような仕組みはiPhone上で構築するのに向いているともいえるだろう。課金システムを構築する側であるBorenstein氏によれば、Facebook上でのマイクロペイメントの回転率はものすごく、億ドル単位の資金がバックエンドで動いているという。これは単価の安いiPhoneやiPod touch用アプリなどでも同様の現象がみられると指摘する。
また「iAd」開始で注目されるiPhone/iPadアプリにおける広告表示だが、広告出稿サイドからの意見では、アプリ内で広告を出すことでどれだけのコストでユーザーが獲得できるかが重要になるという。現状ではまだデータがほとんどないため、ここが大きな問題になるようだ。
Google傘下のモバイル広告会社である米AdMobの北米担当ジェネラルマネージャ兼バイスプレジデントのJason Spero氏は、こうした広告主らの取り組みがまだ実験段階にあることを強調したうえで、「Appleのプラットフォームに縛られた状態でいいのか、そのリスクを考えたほうがいい」とコメントしている。
同氏は広告の例を挙げ「例えばアプリ内で広告を埋め込むのか、あるいはWeb広告として他のサイト上にある広告を表示させるのか、プラットフォーム中立型の仕組みが必要かを考えるべき」と語り、「私がGoogle側の人間というバイアスを差し引いたとしても、各種タッチデバイスごとに開発資金を投入することのリスク分散が必要ではないか? 例えば今後安価なAndroidデバイスが多数登場することになるだろうが、これを見据えたうえでAppleのiPhoneやiPadにどれだけ資金を投入できるかを考えてみてほしい」とマルチプラットフォーム戦略を念頭に置くことを訴えている。
今回の開発者会議を一通り聞いて分かったことは、iPhone/iPadは勢いやポテンシャルが高いと評価する半面、いまだ多くのベンダーや広告主らはその効果を見極めきれていないということだ。一方で成功事例にみられるように、App Storeの成功法則に気が付いて独自のレベニューストリームを構築するメーカーも存在する。またiPhone/iPad開発におけるリスクは、Appleの方針がマルチプラットフォーム開発を許容しない点にある。これは開発リソースの乏しい中小には賭けとなる一方で、成功者とそうでないものを分ける分岐点にもなっている。
1つ確かなのは、App Storeそのものは宝の山などではなく、アイデア勝負でいかに立ち振る舞うのかを試す、デベロッパーにとっての試練の場だということだ。
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