ZDNet　社長就任前と今では，ボーランドの見方は変わりましたか。

安藤社長

安藤　以前は，営業畑を担当していましたので，最大の目標は売り上げの達成でした。社長業でも売り上げは重要ですが，少し違った面での目標もできました。人前で話をする機会も多くなりましたし，会社の顔にならなければならないという責任感ができました。

ZDNet　ボーランドの舵取りをしていく上でのポリシーをうかがいたいのですが。

安藤　IT業界では，「人」こそが最も重要と考えています。社員が高いモチベーションで気持ちよく働いてくれることで，高いパフォーマンスを実現できます。これが製品やサービスの品質につながると考えています。顧客が大切なのは当たり前のことですが，顧客を大事にするためには社員を大事にすることが最も近道だと思います。

　特に，社長に就任したときに，3つのキーワードについてお話させていただきました。まず，「プロアクティブ」であってほしいということです。つまり，何かが発生してから対策するのでは既に遅いということです。常に時代の先を読み，それに基づいた行動をしてほしいと思っています。

　次に「プロフェッショナル」です。少ない人数で効率よく組織を運営するためには，プロフェッショナルな人が多いほうがいいということは言うまでもありません。しかしこれは，仕事人間になれとか，滅私奉公せよということではありません。個人の生活を楽しみながらプロフェッショナルなスキルを高めてもらいたいと考えています。その意味で，現在のボーランドの社員は，全員がプロフェッショナルの集まりだと自信を持って言えます。

　そして最後が「スピード」です。IT業界は，ほかの業界に比べもっとも変化の早い業界です。ぐずぐずしていたのでは競合他社に先んじられてしまいます。やるべきことはすぐにやる，ということが重要です。これは会社組織においては，経営陣に最も求められる能力です。

　新しいボーランドのキーワードは，間違いなくこの3つなのです。

ZDNet　2001年はIT不況の嵐が吹き荒れました。また，同時多発テロなどもありましたが，ボーランドにも影響はありましたか。

安藤　世の中ではIT不況という言葉が飛び交っていますが，このITという言葉の意味が非常に不明確だと思います。確かにうまくいっていない企業もあるようですが，ボーランドに限って言えば顧客の投資意欲も高く，好調な1年だったと言えると思います。現在のビジネス環境では，B2BやB2Cを実現し，Webビジネスを充実させなければ勝ち残れないと言われており，そのための需要が好調の原因といえるでしょう。

　確かに，もっと世の中の景気がよければ，さらに成長できたかもしれません。しかし，不況といわれた2001年においても，われわれの成長は当たり前のことなのです。逆に，Webビジネスの拡大という追い風の今，成功できないとすればそれはわれわれのやり方がまずいということになります。

ZDNet　それでは，2002年にボーランドはどこに向かっていくのでしょう。

安藤　2001年に打ち出した方向性は間違っていないと考えていますので，大きな方針の変更はありません。サービス事業分野への展開に向けた基盤は整いましたので，その拡大に向けまっしぐらに突っ走るだけです。キーワードは，「Javaのワンストップソリューションカンパニーになる」と言うことです。

　Javaのワンストップソリューションとは，Java開発ツールのJBuilder製品を中核に，サポート，トレーニング，コンサルティング，構築までを実現するソリューションの提供するということです。既にJavaのワンストップソリューション実現を視野に入れた体制も確立しています。

　ボーランドは，常に最先端の技術をオープンスタンダード準拠で実現してきました。最新技術では，C++開発ツールを日本で一番早く製品化しましたし，CORBA製品，Java製品と最新技術をいち早く製品化してきました。最近では，DelphiをLinuxに対応した「Kylix」もリリースしています。これらの製品群は，すべてオープンスタンダードに基づいて開発されています。

　オープンスタンダードに基づいた製品を提供することで，一度作ったソフトウェア資産を有効に活用することが可能になります。今や，新しい製品が出たときに，過去の資産が利用できないということは許されないのです。Webビジネスを効率よく迅速に実現するために役立つ製品やサービスを，今後も提供していきたいと考えています。

「年末年始は，家でリラックスしていました」と話す安藤社長。「できれば海外に行きたかったが17年飼っている犬と猫が心配で遠出はできない」と笑う。猫は「寅」で犬は「さくら」の「男はつらいよ」コンビ。体育会系でなく文科系なので，ビデオで映画を見たり音楽を聴いてすごしたという。今は，高校時代から聞き始めたロックやR&B，レゲイなど，当時，聞いたCDを買い集めている。「引退後には，ぜひドレッドヘアにしたい（笑）」