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トレンドマイクロ 渡部敏弘代表取締役副社長 「すべてにセキュリティを普及させていくのが会社としての使命」

ZDNet では一方で,企業におけるセキュリティ面での課題は何だと思われますか?

「GateLockは非常に戦略的な製品」
渡部 これまでは,情報やデータが会社の資産だという意識が薄かったんだと思います。情報の重要性が認識されず,部門ごとにばらばらに存在していて,企業戦略全体の中になかったといえるでしょう。でもその重要性は今,再認識されつつあると思います。

 また,情報管理担当者と意思決定を行う中間層,経営層との間にずれがありました。米国の場合,CIOはボードメンバーの一員でもあり,重要な地位にあります。これに対して日本の場合,管理者の発言権は小さく,結果として予算もそれほど落ちないことが多かった。またセキュリティ対策には,いったいいくらの被害があるのか,いくら利益が出るのか,効果が見えにくいという要因もありますね。

 そこはやはり,経営者やCIOがきちっとシステムの重要性,情報の価値というものを意識することが大事でしょう。企業が情報というものの価値を認識しているか,その価値を管理するシステムをちゃんと作っているかが鍵だと思います。あとは人材ですが,それもこれから,年を追うごとに整備されていくと思います。

ZDNet セキュリティといっても多様な側面があり,他にもさまざまな種類のプロダクトがあります。トレンドマイクロとしては,ウイルス対策以外のラインナップは考えていますか?

渡部 我々のラインナップには既に,アンチウイルスの技術から発展したメールコンテンツをチェックする製品と,Webに関するセキュリティ,いわゆるフィルタリングの製品があります。このラインナップは充実させていきます。GateLockに象徴されるようにパーソナルファイアウォールの技術もあるんですが,それを企業向けにも出していくという予定は今のところありません。

ZDNet PC以外のデバイスや携帯電話などに対応した製品は登場するのでしょうか?

渡部 われわれは,ネットにつながるものは全部対象にしていると思ってください。実際にそれに向けた動きもあります。具体的にどうこうというのはまだ言えないんですが(笑い)。

ZDNet ウイルスやワームの感染速度は年々速まっています。それに対する方策は?

渡部 われわれの製品は元々,集中管理や自動アップデートのための仕組みを備えています。そこでのわれわれの命は,いかに早くウイルスを解析し,ワクチンを出すかというところにあります。現状でも,約250名の解析チームとサポートチームが3交代24時間体制でこの作業に当たっていますが,これを今後も増強していきます。

ZDNet セキュリティに関する他の部分は,システムインテグレータをはじめとするパートナーと組みながら展開していくということですか?

渡部 そうですね。言い方は悪いのですが,サービスの元となるパーツをきちんと出していくことがわれわれの大きな役割だと思っています。それに,顕在化している被害を見ると,まだまだウイルスに関するものが多いんです。ですから,まずその対策をきちんと進めていかないければいけない,というのが会社としての考えですね。

ZDNet 製品ラインナップを広げようとしている競合他社の動きは気になりませんか?

渡部 われわれは競合という視点からのマーケットシェアではなく,実際に必要なマーケットシェアを取っていきたいと考えています。リアルマーケットへの普及が一番の命題ですね。たとえば,企業ユーザーが1000社あって,そのうち100社に導入されていたものが50%アップして150社になりました,といって喜んでいる場合ではないんです。

 ここはやはり,普通のITのアプリケーションとは違うと思うんですよ。どうやってすべてに,限りなく(セキュリティを)普及させていくかが,会社としての使命にもなってきていると思うんです。

 ですから,まず一般の人でも分かる簡単なものをいかにきちんと提供していけるか。また企業でも,大企業もありますが,中小企業のほうがずっと多いですよね。そこに簡単なソリューションを提供していけるかが,一番大きなポイントだと思います。それを目指していけば,セキュリティの普及率も上がっていくでしょうし,会社の業績も自然と上がっていくと思います。

2000年はY2Kがらみで,また一昨年も21世紀という区切りを控えてスタンバイ状態にあり,結局は出社を余儀なくされたという渡部副社長。各方面から警告が出されたこの年末年始も「スクランブルに備えて,いつでも連絡の取れるところにいました。まぁ,都内から動くことはありえません」と言う。「われわれは消防署のようなものです。消防署は休みませんよね」と苦笑する同氏。警戒の甲斐あって,今年は大規模な被害は出なかった。

[聞き手:高橋睦美 ,ITmedia]